誤った選択
突然の出来事だった。
俺は、とある男に狙われている。
妄想などではない、本当に狙われているのだ。
遡れば30分ほど前……。
「おい」
「え?」
低い声で話しかけてきたのは、身長185センチ以上はあると思われる大男だった。
肩を握りしめられて、少しの痛みを感じた。
俺はただただ恐怖をしていた。
カツアゲの場合、今日下ろしたばかりの給料はどうなる?
クレジットカードは、キャッシュカードは……などと良くない方向へと考えがいってしまっていた。
「あの、なんですか……?」
「少し道を訪ねたいのだが」
俺はホッとした。
しかし、冒頭にも書いた通り、この油断こそが最大の誤ちだった。
「ああ、そうですか。私このあたり詳しいので、どこへ行きたいのですか?」
紳士的に対応することにした。
この町は、少し道が分かりにくく、一本曲がり角を間違えるだけで、反対側に出てしまうことがあったからだ。
この図体のデカイ男も、同じようにこの町の歩きにくさに参っていたのだろう。
「公園なんだ、有名な場所でな」
「公園?このあたりですと、こっちですかね」
教えるのも面倒なので、俺はこの男に案内することにした。
「ここですね」
生まれてから、ずっとこの町に居る俺にとっては眼をつぶってでもいける場所だった。
案内した所で、さっき男の言っていたことが気になり始めた。
有名なんだ、と。
「なんだ、お前もこの公園に用があるのか?案内してくれたってことは」
「え?」
「早く行こう、パートナーが欲しかったんだ」
何を言っているのかがさっぱりだった。
「ああ、早く直腸によぉ……」
直腸?この大男から直腸という言葉が出てきて、俺はゾッとした。
もしかしたら……。
この人は……。
やはり、今日の俺はどこか『ネガティブ』だったのだ。
察してからの俺は、行動が早かった。
俺は走った、しかし何故か大男も走りはじめた。
追いかけてきた、何故追いかけてくるのかが分からなかった。
俺にはこのあたりのことが分かっている、だから逃げるのはたやすいと思った。
だが、大男はその体格の通り運動能力においては俺をはるかに上回っていた。
火事場の馬鹿力。
まさに、全力疾走で俺は逃げて、逃げて……逃げ延びた。
感じたくもないぬくもりに俺は免れたのだ。
俺は息を整えて、ゆっくり歩き始めた。
もうあの公園には行かないことにしよう、そして大男に話しかけられても無視をしようと、俺は決心したのである。
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