お題:高貴なオチ 制限時間:15分 読者:25 人 文字数:1024字

渇き
 尋常でない様子で店に駆け込んできたその客は、カウンターに身を乗り出すなり言った。
「とりあえず、カフェオレを一杯」
「落ち着くには水のほうが……」
「いいんだ、こういうときには、俺はカフェオレなんだ」
 ちょうど牛乳を切らしていてバイトに買いに行かせているあいだ、客はなにも飲まずに息を整えていた。
「事情があって、追われていて……っ」
 言ってる最中で咳き込んで、こういう場面でよくある打ち明け話にスムーズにつながらない。無言でコップに水を汲んで差し出すと、これまた無言で押し戻された。
「店長、牛乳売り切れてました」
 そこでバイトが帰ってきて報告したので、どうするかと客を見れば、「カフェオレで」とかすれた声で言う。バイトには電車賃を多めに持たせた。
「駅をふたつ行った先のスーパーなら、たぶん売ってる」
「了解です」
 バイトを送り出すあいだ、牛乳が簡単に手に入らないなんてどんなド田舎だ、と客の顔には書いてあった。喉がカラカラの様子とみて、水入りコップを出すが、もう見向きもしない。
「こんなど田舎に逃げてきたのは訳があってな。というのも、こう見えて俺はさる高貴なお方の……っ」
 無理して話そうとして思い切り咳き込んでいる。明らかに水分を欲している状態でカフェオレとは、逆効果にしかならないと思うのだが。
「それでもカフェオレなんだよ。カフェオレ以外考えられない。大体なんだ、この喫茶店は。喫茶のくせにカフェオレがメニューにないのか」
 急に好物の話題になるとなめらかに話し始めたわけではなく、紙ナプキンを使っての筆談である。客が書くところを覗きみながら、はあとため息をつく。
「カフェオレって難しいんですよ。牛乳とコーヒーとどっちが多い比率だったか、いつも忘れるし」
「二対一で牛乳が多い。黄金率だ」
「それにそもそもコーヒー好きには、味にうるさい人が多いし」
 じゃあなんで喫茶なんてやってるんだ、と客の顔には書いてあったが、この店はいろんな事情で駆け込んできた人に水を出すためにやっているのだ。だからメニューには紅茶もコーヒーもない。
「知人に、喉乾いたときに決まってカルピスを所望するやつがいるんですが、理解しがたいですね。だってあれ、喉潤わないじゃん」
「相容れない人種だな」
 客はなぜか知人の立場に共感したようで、カウンター越しにしばし睨み合った。それで、高貴なお方の話を聞くことはできず、ただバイトの帰りを待った。

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