お題:阿修羅湖 制限時間:15分 読者:29 人 文字数:873字

複雑なやつ
 ふと思い立って湖に身を投げたところ、ひとりきりと思った水中に先客がいた。悪鬼そのものといった顔をして、ひどく怒っている様子である。さては、夕涼みに水浴びでもしようと、その勢いでついダイブした近所の住人かもしれない。
 半裸だったし、非礼を侘びて、先にあがろうとした。
「闘争を」
 水のなかだったのに声が聞こえた。悪鬼の顔はそのままで、口すら動かさずに喋ったから、よっぽど器用なのだろう。
 なにやら左右にいっぱい生えた手を動かして、かかってこいとばかり、挑発しているようだ。
 売られた喧嘩はクーリングオフする主義だ。殴り合いを辞退したのを察したか、今度は背後から盤を取り出して、ゲームをしようと持ちかけてくる。
 あいにく、チェスも将棋もルールがわからない。あんなにたくさん駒がある複雑そうな遊びなど、理解できるわけもない。
 すると、渋い顔をしながら、いや顔は悪鬼のままなのだが全身からそんな雰囲気を出しながら、手で一度盤を叩くと、今度は白と黒の駒が並んだ、オセロ盤が姿をあらわした。
「これならさすがにできるだろう」
 したり、と笑ったような雰囲気を出していたが、体も冷えてきたし、水中で変なやつとゲームに興じるほど酔狂でもない。身投げの予定が狂ったのなら、さっさと陸にあがって、服を着たかった。相手は半裸だったが、こちらは全裸だったのである。
 そいつはなにやら左右の手で必死にしがみついてきたが、顔面に蹴りをくれてやると、そのまま湖の底へ沈んでいった。手だけでなく顔もいっぱいあったようで、一個が晴れぼったくなっても、残りは悪鬼のままだった。
 翌日、ふと思い立って首を吊ろうと森のなかで枝にロープをかけたところ、熊と間違えて肩を撃ち抜いてきた猟師から聞いた話では、近くの湖は阿修羅湖というらしい。
「水中には阿修羅が出るんだよ」
「阿修羅ってなんですか」
 即座に聞くと猟師は答えに詰まって、
「なんかこう、画数の多いやつだよ」
 聞くからに複雑そうだ。複雑なものは理解できないと相場は決まっているので、それ以上考えるのをやめた。
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