お題:愛、それは食堂 制限時間:15分 読者:14 人 文字数:1238字

「愛情(並)1200円」
「うちの食堂は愛情たっぷりなんですよ」
 たまたま入った食堂で、お冷を持ってきてくれた女性店員がそう言った。
 店員、と思ったが、この小さな食堂だ、もしかするとオーナーなのかもしれない。座席もカウンターしかない小さな店だし、一人でも十分切り盛りできるだろうし。
 注文お決まりの頃にお伺いしますね、というそれこそ「お決まりの」言葉をかけられたので、私はメニューを見やる。
 ラミネートされた手書きのメニューだ。最上段にデカデカと「愛情100%をお出しする食堂」と書かれており、その下には「愛情(並)1200円」「愛情(レディース)1200円」「愛情(お子様)1200円」「愛情(大)1500円」と書かれている。
 まさか、この「愛情」がここで出される料理なのだろうか。
 数年前に入った気取ったレストランで、「南欧の風」という料理を注文したことがある。出てきたのはただのモッツァレラチーズとトマトのサラダだった。これも、そういう感じで意識の高い名前がついているだけなんだろうか。
 いや、違う。
 私は「愛情」の並ぶ下段に書かれた文章を見つけてしまった。
「他店では「愛情と食材」または「食材」のみですが、当店のメニューはすべて「愛情」のみでできております」
 わかったぞ。
 私はそっと席を立ちあがる。
 これは「愛情です」と称して、空っぽの皿が出てくるパターンだ。
「すいません、ちょっと用事が入ったので、またの機会に……」
 席からカウンターの内側に声をかけて店から出ようとすると、入り口の前にさっきの女性が立ちふさがっていた。
「駄目です」
「いや、でも、用事が……」
「この食堂に入ったからには、何がなんでも愛情を受け取ってもらいます」
「愛情というなら、用事がある人間を帰らせるのもそうでしょう」
「その愛情はうちでは取り扱っておりません」
 そう来たか……。だが、私も空の皿に1200円も出す気はない。
「用事だって言ってるでしょ! どいてください!」
「いいえ、用事はうそです」
 きっぱり言い切った。くそ、やっぱり電話がかかってきたふりをすべきだったか。
「何でそう言えるんですか?」
「だって、みんなそうだからです!」
 自信満々であった。ちょっと悲しくなる。
「メニューを見て、みんな帰るんです。そして、別の店に入る。今まで10人尾行して、10人がそうでした」
 何だそれは。「じゃあ何が問題か11人目が来るまでに考えておいてくださいね、それじゃ別の店でお昼いただきまーす」じゃないか。
「だって、あんなメニューじゃ何もわからないじゃないですか。それに1200円も払えと?」
「いいえ、わかるはずです! あなた方に愛情を受け取る準備があれば!」
 言い争っていても仕方ない。私はこの女の思惑を指摘してやることにした。
「とか言って、空っぽの皿を出す気でしょう!」
「いいえ、空じゃありません! 受け取る気がない人には見えないだけです!」
 やっぱりかよ!
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