お題:残念な許し 必須要素:三島由紀夫 制限時間:1時間 読者:16 人 文字数:1714字 評価:0人

飲酒運転と覚せい剤は割に合わない
 三島由紀夫。
 ・・・・・・の死に衝撃を受けて、自衛隊に入った作家といえば、浅田次郎である。


 特別に好きな作家であった、というわけではなかったが、”あの時代を作家として生きようとする限り、絶対に無視できない作家であった”と、浅田は三島を評している。
 確かに、両者の作風に似た部分は無い。三島は、繊細で、鋭敏で、しかし、元は病弱で、それをウェイトトレーニングやボクシングで鍛え上げ、愛国精神で覆った。浅田は、現実的で、生き汚い他者の存在を認め、逃避行も留置場経験も、物語に”仕上げて”しまう、タフさでのさばってきた。

 競馬、切り取り(※貸金の回収)、他作家の文章の模写、自身の小説の執筆。結婚し、子供を育て、生業として、書き続けてきた男は、三島が生きていれば、残念な作家だと、評したろう。が、自分の穢さを許せたがゆえに、浅田は、何本もの傑作を書き残してきた。
 男を捨て、出世を選び、のし上がっていく宦官が主人公の『蒼穹の昴』。切り取られた傷口に、尿道を確保するために詰め物をする場面など、感動的なほどの”痛み”があった。そこには、切腹して果てるような、潔さ、死に弱さはない。
 若い頃は、過去の初等ヤクザ(と言っているが、実際は企業舎弟のたぐい)経験にフィクションを織り交ぜ語っていたが、歳経ると、今度は、「近頃の若い者は・・・・・・」と、手前勝手に老害となる、図々しさを見せる。その掌反しは、金になるなら、原価が低く売り上げが高く、利益が出るなら、”たとえい正業でも”やってしまう、暴力団モドキの徹底した、そして、ぎらぎらとした、思うがままに生きようとする強さがある。

 暴力を用いる者は、同時に、自分を正当化するための、”三分の理”を語ることにも長けており、例えば、香港の黒社会のメンバーは、デモを起こす学生を殴り倒し半殺しにするにも、市民のため、仁義のため、と口実を作る。これは、利息制限法を超えた利率の貸金契約書のようなもので、しょせんは口実に過ぎないが、”それさえあれば充分”というものでもある。
 小は、笑える着メロをかけ、それに反応した市民を、「傷ついたから賠償金払え」と脅す、タカリの口実であり、大は、原発ヤクザが、「地元に金を持ってきてやっている」と胸を張る、その物言いであろう。
 (※「原発のおかげで、シャブを売らずに済んでいるのだから、ワシの判断は善」と言い切る不遜さには、聞いているこちらが笑ってしまうほどだ)

 完璧な正しさを求めれば、己の小さな悪をも許せなくなる。だが、他人の巨悪も自分の利益になるならば許せる者は、他人の小さな善を見逃すことはできるのである。
 人をカステラ一番のリズムで蹴りながら、「誠意を見せろ」「お前が悪い」と言い続けられる、自分をも騙せる貪欲さ。
 コンクリブロックで殴りながら、「俺の服に 血がついて 汚れたじゃないか、クリーニング 代を出しやがれコノ」と三々七拍子のリズムで脅せる日本語ラッパーのような頭の悪さ。
 「世の中にはああいう人たちも必要だ」と言い切るには、犯罪者としても器が中途半端で、地方の公立中学で学校には来るくせにタバコを必死に隠すガキどもが、そのまま大人になってしまったような、どこにでもいそうなチンピラ具合。
 だが、唯一無二の者でなければ生き残れないならば、小説業界は商売にはなっていない。
 バカ売れはしないが、とりあえず、特定の層は買ってくれる。その安心感があれば、出版社はその作家を求めてくれるのだ。それが証明できないならば、作家の方で、別の出版社に売り込みにいかなくてはならない。それで飯を食うなら、一桁の会社に断られたくらいで、諦めている場合ではない。
 浅田自身も言っている、「自殺すべきときは、今日食う飯の代金がない場合と、今日殺されることが確実な場合だけだ」と。
 今日の分の飯を食ったら、殺されない内に、さっさと銭を稼ぐのだ。


 人は、美学のためには死ねても、生きることはできない。
 人は、悪事を行って生きていても、いつかは死ぬことができる。
 世の中は、そういう、”残念な許し”で成り立っているのだ。
作者にコメント

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