お題:残念な許し 必須要素:三島由紀夫 制限時間:1時間 読者:27 人 文字数:824字 評価:1人

ヨイ
いつからだろうか。
酔うのを忘れたのは。

仕事が終わり、今日も終電に乗り自宅であるアパートへ着いた。

うつらうつらにポケットから鍵を取り出し扉の鍵穴へ差し入れる。ガチャリ、という小気味の良い音を立て前へ引くとググッといいながらゆっくり開かれた。

台所と部屋が一纏めにされた一室は今の今まで無人だった為暗い。壁を這わせ手探りで電気のスイッチを押せば、カチ、カチ、と蛍光灯が金属が擦れたような音を鳴らしながら明かりを灯す。

はぁ、と思い溜息をつくや否や、一目散に冷蔵庫の扉を開ける。ぱす、と乾いた音を立てながら開くと家主の帰りを待っていたかのように缶状の酒類、つまりビールが冷えていた。


「なぜ大人は酒を飲むのか。それはな、酒を飲まないと酔えないからだ。お前たち子供と違ってな。子供は酒を飲んじゃいけないのは身体に悪いからだけじゃない。飲む必要が無いからだ。子供は酒なんか無くても酔えるんだよ」

酒飲みの父親が口癖のように言っていたこの言葉。三島由紀夫という作家の、何かの作品を読んで言っていたことが後になって分かったが、当時の自分には全然分からなかった。飲酒を止めたくない、程の良い言い訳じゃないか、と子供ながらにいつも聞き流していたものだ。酒を止めるよう駄々をこねても父親は止めることはなかった。子供の頃の自分には分からなかった。何故父親が酒を飲むのか、何故大人は酒を飲むのかが。


ビールを一口含んだ。

大人になった今なら分かる気がする。

大人は悲しいことに子供を忘れるのだ。

「遊ぶ」ということを忘れるのだ。

野を駆ける、友達とふざけあう、虫を取りに行く。何時間もずっと足元の蟻を観察する。

子供は大人の想像が及ばないくらい一日を生きるだけで「酔える」んだ。

今の自分には、酒を飲む口実として残念な許しを乞うた父親のことを咎められないな、とほろ酔い気分になりながらそっと苦笑した。
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