お題:セクシーな夜中 必須要素:太宰治 制限時間:1時間 読者:38 人 文字数:2615字 評価:1人

夜に溶ける
機械の群れが進行していた。生物を残らず殲滅するがための進行であり、侵攻であり、ひょっとしたら信仰だった。
祈りの言葉の代わりに演算装置は回り、五体投地の代わりに赤いモノアイは忙しなく動き、生体特有の動作を見つけ出そうと企む。
生きるものがいえれば、拝むかのように自然に躊躇いなく抹殺する、銃弾の雨、鉄量の濁流は、ネズミ一匹とて逃さない。
108体の機械群は大きさも性能もまちまちに、ただ生き物を殺すという目的にまとめられて進んでいる。

――私は、その男の写真を三葉、見たことがある――

だから、その機械の中の一体が吐いた言葉など、たんなるエラーとして扱われた。
たまにいるのだ、異なる動作を行い効率を落とすことを「個性」などと称するモノが。
その隣を行く五脚歩行の機械も、だからこそ、若い機械特有のバグであろうと嘆いた。こんな奴とあと214時間36分25秒もいなければならないとは。

――恥の多い生涯を送って来ました――

延々と続く無意味な情報。なんの価値もない音声情報の吐き出しだ。
直結してデバックしてやるかと、五脚機械がめったにない老婆心を起こしたところで、水を差すような侮蔑が音声情報として伝わった。

「……お前ら、太宰治も知らねえのかよ」

はて、と首を傾げるよりも先に叩きつけられた、閃光、衝撃、内部破損、発砲音は遅れて現れる。
夜の暗闇を切り裂き、一発の攻撃が放たれた。
そう、隣のエラーが自分を撃った――そう五脚が判断した時には、何もかもが遅すぎた。

「やっぱお前ら気に食わねえわ、文学を知れ、文学を」

更に銃撃が、分厚い防壁が凹み、五本の脚を以てしても自重を支えられなくなる。
混乱と罵倒のノイズを自身が発していることにたまらない嫌悪を憶えながらも、五脚は足先にレーザーブレードを展開し、エラー個体の首を切り落とそうとし――出来ないことに気が付いた。

IFF(敵味方識別装置)。
お前が今やろうとしている攻撃は、それにふさわしくない対象である、お前はおかしな行動をしようとしていると、お節介な安全装置がロックしたのだ。こんなもの、本来はひと手間で外せる。だが、今はその「ひと手間」が致命的な遅延だった、それは、五脚が物言わぬスクラップと化すのに十分な間だった。
3456km/hで放たれる25の銃弾が容赦なく叩きつけられ、五脚を完全に停止させた。

進行が止まった。
それは多分に戸惑いを含んだ停止だった。
敵はいない、どこにもいない、生物の発見は皆無だ。
だというのに、なぜ味方の数が減っている。おかしいではないか。

一体が、跳ねた。
おかしな言葉を言っていた機体だった。
彼らの戸惑いを嗤うように、皮肉交じりの声が降る。

――自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです――

一言ごとに銃弾が降り注ぎ、機械たちの演算中枢に到着した。
混乱はさらに加速する。

敵、否、味方、しかし――
五脚が行った躊躇が、そこかしこで発生し、また、同じように銃弾を受け取った。
太宰治を朗読するエラー個体は、その間、ただ一方的に攻撃した。

機械の体で化鳥のように飛び跳ね、自分には人間がわからないと喚き続ける。
夜を爆炎が彩った、それは不合理な動きで銃身を振り回すシルエットを映す。
止めよと手を挙げる鋼鉄を破砕し、回り込もうとする無限軌道を吹き飛ばし、掲げる盾の内側に銃を突き入れマズルフラッシュを瞬かせる。

やりたい放題といって良い暴れよう、しかし、それも永遠には続かない。
そう、IFFを外すことは、少しばかりの手間でしかない。

統率個体が一際大きいモノアイをぐるりと回し、残る73の機械にコマンドを送れば、それだけで決着はついた。不合理な動きをするエラー個体は、背後に現れた黒色機械により動力部にクサビを打ち込まれ、上空より飛来した羽根付機械に蹴り落とされ――あとは、残る全員による攻撃の雨あられにより、あっという間にスクラップとなった。

微動だにせず黒煙をゆらゆらと吐き出すそれは、先ほど前の狂乱を微塵も感じさせない。

「――人間……失格――」

最後の最後まで意味不明の言葉を吐いて、そのエラーは終わった。

統率機械のモノアイは、動力部の完全停止と電子運動の未検出を把握した。
戦闘体勢を解除、味方の被害状況の報告と戦闘継続可能指数を算出する。

そう、終わった、はずだった。

――な……っ

と声として上げることができれば、そのように言ってしまっただろう。

統率個体は、奇妙なものを見た。
壊されて、スクラップと化したエラー個体。
データ上ではいかなる異変もそこにはありはしない。どのような変化も感知できない。
だというのに、巨大なモノアイは壊された機械から、ゆっくりと立ち上がる「人影」を、たしかに見た。

透明な、だが、抹消すべき対象。人類。
反射的に攻撃をするが、当然のようにすり抜ける。むしろ、周囲の機械たちがぎょっとしたようにモノアイのことを見た。それは先ほどまでの味方殺しにも似た「無駄な行動」だとしか思えなかったのだ。

警戒――!

コマンドを発するよりも先に、人影が近づいた。
決して目を離さないようにしていたというのに、ふと気づくともう目の前に。
皮肉に顔を歪めてニヤニヤと、楽しくて仕方がないと言うように、しかし、その両の拳を強く握りながら。

 お前らさ、すげー憑りつきやすいのな?

そんなことを言いながら、ずるりと、入り込まれた。
どのようなアクセス経路もないはずだった、完全にスタンドアロンで稼動しているはずだった、しかし、当たり前のようにそれは浸食してきた。

モノアイに、今まで感じたことのない情報が、一度に押し寄せた。
完全な無駄、まったくの無意味としか思えないエラーの群、群、群。
だがそれは、身をよじり、月へと吠えることを余儀なくされるほどの。

存在しない肉体が冷たく味方が無残を晒す夜を官能として捉え、進行と侵攻と信仰が溶けて流れる、ドロドロに。

何かをしたい、したくてたまらない、たまらない、今すぐこれを外へと吐き出さなければ。
言葉だ、詞だ、己が官能と共に出すべきはそれなのだ。

――私は、その男の写真を三葉、見たことがある――

統率個体は、気づけばそう発信し、己という情報が消えていくのを感じていた。



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