お題:贖罪の道のり 必須要素:パスタ 制限時間:1時間 読者:31 人 文字数:2622字 評価:0人

昔と今での
「ただいまー!」
大きな声を出しランドセルを放り投げながら帰宅する。
すぐにごはんを食べて出かけたいからだ。

「おかあさんご飯まだー?」

「もう出来てるから手洗ってきなさい!」

「はーい」

幼少の頃の土曜日。半日で終えた小学校から帰るとお昼で出てくるのはよくパスタだった。

今の感覚でいうとパスタというのもおこがましいだろう。
魚肉ソーセージを焼いたものともやしをトマトケチャップで和えたスパゲッティといった感じの安っぽいものだ。
それをどんぶりによそいで箸でズルズルと食べて麦茶を飲み干すとなんとも万能感が出てきて、午後から友達と遊びにいくぞという気持ちになったものだ。

このスパゲッティの味は今ではもう食べられない思い出の味だ。もう二度と食べられないだろう。
これを作ってくれた母が他界したことを、先ほど電話で知らされたからだ。



関東から2時間ほど北の方に車を走らせ、寂れた農協の看板が見えてくると実家に帰ってきたという気持ちになる。何年振りだろうか。
辺りは山と畑で囲まれており、よく言えば自然豊かな土地だ。
母はこの土地に親の世代、つまりは俺の祖父の代から農業をしながら住んでいた。

実家に到着すると知らない車が停まっている。おそらく叔母夫婦のだろうか。
玄関を開ける前に、なんとも言えない気まずさが出てくる。

俺は、なんと言って帰ればいいんだろうか。
少し迷いながらも玄関の扉を開いた。

「ごめんください」

「はーい。あらヨウちゃん、久しぶりね。ごめんくださいなんていうから誰かと思ったわよ」

「なんとなく。久しぶりでしたから」

実家には母と母の妹である叔母とその家族が住んでいた。
実家を譲る代わりに一緒に住まわせるような話になっていたんだろう。
そのあたりは俺もあんまり知らなった。

ちなみに私に父は居ない。物心つく前にはすでに居ない存在だった。
田舎だったのもあり、近所の人たちと交流が多かったからか寂しくもなく、幼少の頃はあまり意識したこともなかった。
歳を重ねて多少は気になったが、そうなるとどうに母には聞きづらい。焦って聞くほどでもないかと思って先延ばしにしていたのだが、ついに聞きそびれてしまったようだ。

「とりあえずあがりなさい。ごはんはいる?」

「ええ、よろしくお願いします。」

「その前に線香あげちゃってね」


廊下の脇にある母の部屋には祭壇が組まれて上には写真が飾られていた。
記憶の母よりもしわも増え、穏やかに笑っている。
そういえばジッと顔を見るのも久々かもしれない。

「かあさん。ただいま」

思わず声に出る。
涙は出なかった。悲しさよりも、長年会えなかった申し訳なさや気まずさが強かった。

長いこと物思いにふけっていたのだろう。叔母から食事ができたという声を聞いて茶の間に向かう。
出てきたものパスタのカルボナーラだった。

「ごめんねぇ、レトルトのもので。すぐ出来そうなのがそれだけだったのよ」

「いえ、いただきます。」

「あたしはまだやることあるから、ちょっと席外すね。皿は水につけておいてね」

そう言い残すと廊下の方に小走りで走っていく。昔から変わらず忙しない人だ。


出されたフォークで一口ずつ巻いて食べる。
こうして実家でパスタを食べていると不思議な気持ちだ。
俺はフォークでパスタを食べらるようになったんだぜ、と心の中で母に報告をする。


食事を終えて台所に食器を持っていき、水に漬けようと水道を捻ると玄関から大きな声が聞こえてくる。

「今更!今更何しに来たのよ!」

叔母の声だ。どうやら来た客に対して言っているらしい。

廊下の先から玄関の方を覗いてみると、背丈も小さい男性に対して怒りをぶつけている叔母が見えた。
男性は何も言い返さずにしきりに頭を下げている。


まさか、とは思った。
少しずつ、ゆっくりと玄関に向かう。足音は小さく、心臓は大きく鼓動していく。
玄関に近づくと男性もこちらに気づいたようで俺の顔を見据える。
俺は思わず声をかけていた。

「あの、もしかして」

「ヨウちゃん!あんたは奥行ってなさい!」

叔母からの牽制が入るが、どうしても話だけはしたかった。

「もしかして、俺の父ですか?」

「ヨウスケ、ヨウスケなのか。でっかくなったなぁ」
しわくちゃの顔がさらにしわくちゃになる。
なんとなくだけど、俺の父親なのだろうと理解できた。

「叔母さんごめん。どういうことがあったのか知らないけれど、話をしてみたい」

叔母は何かを言いたそうにしていたが、観念したかのように母の部屋に俺と父親を案内した。




「申し訳なかった」

部屋に案内されたあと、3分ほどはなにもしゃべれなかった。
長い沈黙を破ったのは父からの謝罪。何があって母と別れたのかを語ってくれた。

かいつまんでいうと借金からくる負担を母に押し付けていたらしい。
それに気づいた叔母が祖父に話をして二人を別れさせたが、すでに母は俺のことを身ごもっていたらしい。
それから子供ができていたということを知った父は心を入れ替えまじめに働いて借金をなくし母のもとに出向いたらしい。
まぁ叔母に追い返されていたらしいが。

「結局あいつとの復縁はあきらめたんだ。もう俺の存在は負担になるだけだろうと思ってな」

「でも、どうしても。どうしても線香くらいはあげたかったんだ」

涙を流しながら語る。
俺よりもこの人の方が母のことを思ってたんじゃないかと思い、少し不甲斐ない気持ちになる。

「俺も母さんには謝りたいよ。結局育ててくれたのに家を飛び出して、親孝行もできずに先に逝っちゃった。なんか悲しいってのもおこがましい気持ちだよ」

そう気持ちに整理がつくと自然と泣いていた。二人して母親に怒られたかのように大声あげて泣いてしまったのだ。

落ち着いたあとに近況を話し合ったり、昔のことは話したりした。

「そういえばあいつは俺が作るスパゲティが好きでね、昔はよく作ってやったんだ」

「もしかして、ケチャップのやつ?」

「ああ、ヨウスケにも作ってやっていたのか。どうだ、一緒に作って食べないか?」

せっかくの土曜だ。贖罪として二人で話しながらスーパーに買い出しに行くのもいいかもしれない。

これからのこともいろいろと話しながら。



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