お題:贖罪の道のり 必須要素:パスタ 制限時間:1時間 読者:69 人 文字数:3287字 評価:0人

宇宙と心
「パスタ食べてぇ……。パスタ食べてぇよ……」
 なあ、と男は運転席に身を乗り出して話しかける。ハンドルを握る運転手は、微動だにせずに前方だけを見つめている。
「パスタよ、パスタ。わかる? 聞こえてる? もしもーし」
 後部座席の男は運転席のヘッドレストをたたいた。その腕には銀色に光る手錠がはまっていた。
 それでも運転手からの反応はない。手錠の男はため息をつくと座席のシートにその身を投げ出すように預けた。
「ちょっとぐらいさー、話してくれてもいいじゃんかよぉ。だって俺、これから死にに行くんだろ?」
 そう言いながら男は車の進む先を見上げる。道路の向こうには天を突くような巨大な建造物が鎮座している。
 古代の神殿のような威容を誇るこれは、地球で建てられたものではない。宇宙からこの星へと降りてきた未確認飛行物体だったものだ。
 だしぬけに車が停まり、シートベルトをしていなかった男はヘッドレストに額をぶつける。
「ってー……。何この急ブレーキ?」
「出ろ」
 運転手はそう告げて自分が先に降りた。後部座席のドアを開け、手錠の男を引きずり出す。
「出る、出ますってば、もう……」
 クソ、などと悪態をつく男の腕をとると、運転手は手錠を外した。
「送るのはここまでだ」
「あー、はいはい」
「この先の任務はわかっているな?」
「俺が中で死にゃいいんだろ?」
 運転手は顔をしかめる。
「違う。復唱しろ、この任務は――」
「世界のためだろ? 知ってるっての。何回も聞かせやがってさ」
 運転手の言葉をさえぎって、手錠を外された男は大げさに両腕を広げて見せた。
「じゃあ、行ってくるからさ。ミユキに万が一に備えてパスタ買っとけって言っといてよ」
「わかった。じゃあな」
「絶対だかんな! 俺がもし生きて帰ってきてミユキがパスタ買ってなかったら、あんたの家でパスタ作るからな! 俺はミユキのパスタ以外は食わないんだよ! あいつのパスタは最高さ。パスタ作ったりして家庭的な彼女と、大貧民で負けてちょっと子供っぽいとこある俺。前世代のラブソングみたいだろ? 純粋な愛情の歌ってやつだ。コンビニでディーオーキューとかいう人種が合唱してたって話の? 知ってる? 知らないの? じゃあ歌ってやるよ。~ン目を閉じれば……」
「いいから行け!」
 追い立てられるようにして、男は宇宙からやってきた建造物へ走り出した。


 銀河連邦に地球が加入したのは2119年のことだ。
 その加入の仕方と言えば、20世紀に起きた二回目の戦争で、最後まで粘った敗戦国が超大国の一都市で条約を結んで国際社会に復帰したのと似た形だった。
 そう、地球は宇宙戦争に参加し、負けたのだった。くしくも地球が立った側は銀河同盟で、同盟星側という単語が使われていた。
 この際に結ばれた条約によって、地球には巨大な宇宙監獄が設営され、その管理を押し付けられることになる。
 それがあの神殿のような巨大建造物、通称「スペースジェイル」である。
 スペースジェイルは監獄とは名ばかり、宇宙中の無法者を閉じ込めておくだけの施設だ。更生どころか監禁もない。ジェイルの設置された惑星の中であればどこへ行ってもいい、とされていた。
 そのため、今や地球は宇宙中の凶悪犯罪者が集まる星となっていた。
 事態を重く見た地球連合政府は、スペースジェイル内の囚人の排除を決定する。
 銀河連邦側は、ジェイルの設置された星の住人たちが、勝手に囚人を処刑することに意義をはさまない。スペースジェイルの管理とは、すなわち監獄の置かれた星で囚人を処刑するという意味であったから。
 そこで囚人を全滅させ星の秩序が保たれるなら、そこの星は合格、大手を振って銀河連邦の一員として認められる。しかし、囚人に乗っ取られるようならば――。
「ウルトラギャラクシーカノンで地球は消滅させられる、と……。相変わらず無茶苦茶だねえ、高等宇宙生命体の皆々様は……」
 手錠を外された男――キラノは肩をすくめる。
 囚人の排除と処刑は地球中で行われている。だが、囚人は毎日のようにスペースジェイルに送致されてくる。ジェイルの中いる囚人たちを皆殺しにし、囚人転送用の送致ポートを破壊するのがキラノの任務であった。
 これまで、数多くの人間がこのミッションに挑戦してきた。地球連合政府の正規軍や、未だ付き合いのある元同盟星との混成部隊、外に出た囚人を懐柔し装置を破壊させようとしたこともあった。だが、そのいずれも失敗している。
(中に残っているのは、とびきりとんでもないヤツばっかりだ)
 地球から見ると白鳥座の辺りにある星からやってきたというある囚人は、中の情報を求められてそう話した。
(俺みたいな金とか富に興味のある囚人は出てくるんだよ。ほら、まともな商売始めてんのもいるだろ?)
 だが、中に残っているものは違うという。
(とにかくヤバい連中だ。この星の倫理感は知らないが、殺人とかまずいんだろ? 強姦とかもさ。そういうのにしか興味ないやつらが手ぐすね引いて待ってるのさ。外に出た中には、こういう連中に獲物を提供するビジネスをやってるのもいるんだぜ。連中は、殺しに飢えてるからな――)
 実際、派遣した軍隊は、二度ともその殺人鬼たちに全滅させられている。
(エサをやったようなもんさ。あの中にいる連中には、兵隊を殺すことだけに快感を覚えるヤツもいるからな。前の戦争で歪んじまったんだそうだよ……)
 そんなサイコパス宇宙人たちにどう対抗すればいいのか。
 そこで提案されたのが、「こちらも殺人犯を送り込んではどうか」という「目には目を」ともいえる作戦だった。
 冷凍刑に処されている凶悪殺人犯の内、強力なサイコパシーを持つものを選び抜き、恩赦を餌にその腕と凶悪な精神性を振るわせる。
「ゴミをもってゴミを片付ける、と。相変わらずエグいねえ、定型発達の皆様方は」
 その第一号がキラノだった。
 首には監視装置と爆破用の爆弾が付いた首輪をつけられた彼は、地球にやってきた宇宙人を30人殺害した罪で収監されていた凶悪犯である。
(宇宙人をまた殺せるのはうれしいねえ……)
 冷凍刑から起こされたキラノは、計画を聞いてこう応じた。
(だけどさ、何匹殺す必要があんの? はあ? 2000? もう爆破しろよ……)
 スペースジェイルは外からの物理的な攻撃では破壊できない、形而上学的な壁で覆われていた。そのことを説明され、やれやれとキラノは首を横に振った。
(泣けるねえ、青い星よ。外から来たタコ野郎どもに首根っこつかまれるだなんて――)


 だからもっと殺しておくべきだったんだよ
 キラノはスペースジェイルの威容を見上げて思う。
 宇宙からきて地球に潜んでいた宇宙人が、いつかこの星を乗っ取るのではないか。
 キラノが宇宙人ばかりを狙って殺人を繰り返した根本は、この恐れであった。マインドスコープによる最新の精神分析で明らかにされたことで、キラノもそれには納得していた。
(ミユキ、なんだよ? なんでパスタに砂糖ぶちまけんだよ。それに、イチゴも。そのイチゴってはくちょう座の方の品種だろ? 地球産、使え、よ……。え、嘘だろ? お前、なんだよ、その姿、ありかよ? シェイプシフター? ざけんなよ! 地球人だって、だから――)
 ミユキ。
 最初に手にかけた、愛したはずの女の名前をキラノはつぶやくと首輪をなでた。
 そうだよ、俺は怖いんだ。宇宙人が。この大宇宙時代におかしな話だけど。
 だってさ、地球人のふりさえして奴ら潜んでいるんだ。大手を振って歩けよ。俺みたいなのが差別するから? こそこそするから気持ち悪いんだよ。嘘つくから、信じられないんだよ。
(いや待てよ! 何が高等生命体だからだよ! 心がわかる? でも好きだから? ざけんな! ざけんな! ざけんなって――!)
 行くか。
 感慨を捨てて、キラノは歩みを進める。その先で死ねば、ミユキに会えるのだろうか。
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