お題:煙草と敗北 必須要素:高認 制限時間:2時間 読者:49 人 文字数:4262字
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コンビニに勝利の狼煙、上がらず
 高校を卒業していないバカでも出来るような仕事など、コンビニのバイトしかないだろう。そう私は思っていた。バカは世の中を甘く見ているし、将来へのビジョンを持たない。私はバカだった。バカなので、バカでも出来るコンビニのバイトでもそこそこの人生を送れるだろうと思っていた。もちろんそんなことは無理に決まっている。どころか、コンビニのバイトすら受からない日々が続いた。社会の敗北者だった。それどころか、心が折れて少し引きこもっている間にコンビニバイトにも「資格」というものが必要になる時代となったことを私は知らなかった。

「コンビニ事業者用高校卒業程度知能指数認定試験?」

「そだよー。なんか最近、コンビニですごいトラブルが多いらしくてさー。切れた客と店員の間ですぐに暴力沙汰になって、人がすぐ死ぬから、コンビニ業界が政府に頼んで、トラブルを起こさないような高卒程度の日本の常識と知能持ってる人間じゃないと採用できないようにしたんだって」

「前はあんだけ人手不足人手不足っていってたのに」

 まあ私は人手不足でも落ちたんだけどね。

「それで外国人をたくさん入れたみたいなんだけど、ほらコンビニのお客さんって基本的にクレーマーばっかじゃん?だからちょっとしたクレームから暴力騒ぎになって、で、店員さんサイドもそんなことだからこっそり自力武装とかするじゃん?もーそんじょそこらでバンバン銃撃騒ぎ。コンビニ業界も大慌てよー。それで、店員の質を精査するために高認相当の試験をコンビニ業界にも専用に導入することにしたの」

「それはひどいことね。でも私もいつまでも親のスネなんてかじり続けられないからそろそろコンビニでもいいから働きたいのよ。ていうか最近どこも人手不足なのに雇ってくれないとこばっかで。なんでそのコンビニ高認でもいいからちゃっちゃと受けて合格したいわけ」

「そういうと思って用意しといたよーはいコンビニ高認用テキスト!」

「準備がいいわね」

「アタシこれを紹介してお金もらってるからさー。あんたちょうど特に頭働かせてないニートだから乗ってくれるかと思って」

 私は友人の暴言に毒づいたが感謝した。そして今テキストを開いて勉強している。

「メビウス、メビウスボックス、メビウス100ボックス、メビウスワン、メビウスプレミアムメンソール……」

 コンビニでもっともトラブルが多いのがタバコの会計だという。膨大に増え続けたタバコの種類、肥大化する消費者の要求、過剰なサービス主義。それらがインフレしていった結果店員が覚えなければならないタバコの数は際限なく増え続け、さらにその略称まで覚える羽目になった。かつては数字で略すことでそのトラブルを回避していたらしいが、高齢化社会が進む日本ではタバコ消費者団体の権力が拡大し「バカにされているようで不快」とタバコの数字略は廃止されたのである。

「で、メビウスの旧称がマイルドセブンで、マイルドセブンのさらに略称がマイセン?それをいちいち全部覚える?冗談じゃないわよ……規格統一しなさいよタバコ程度」

 しかもタバコはメビウスだけではない。これ以外にもまだマルボロだとかセブンスターだとか種類があってそのそれぞれの中で細分化されているらしいのだ。これ以外にもまだ覚えることは山ほどあった。私は即座にメールを打っていた。

『ねえなんとかこれインチキとか出来ない?』

『その言葉を待ってました(^^)』

 そして私に紹介されたもの、それが「脱法コンビニ高等武力認定試験」である。



「ぐへへへへへへ……今回の挑戦者はあんな小ぶりな嬢ちゃんかよ。雑魚がコンビニ店員になろうたあコンビニ業界をなめすぎているんじゃねえかあ?」

 ヤニを歯にこびりつかせた試験官がそういって下卑た笑いを漏らす。

「なめてみるほどこの業界は美味しいのかしら?まあ、それも直にわかることね」

 そういって私は目の前の試験用レジで公共料金の処理をはじめた。私の膨大な公共料金処理速度にコロシアムコンビニの観客達が大いに沸き立つ。

 脱法コンビニ高等武力認定試験、それは危険性が加速するコンビニで迅速に武力紛争を鎮圧するために、特別に存在が認められた武力コンビニ店員を採用するための試験である。

 現在コンビニ業界では大幅に増えたクレーマーと不慣れな移民店員の間の武力紛争が激化している。その双方を無力化することが可能な強靭な戦闘力を持った店員を特別サポートとして雇い入れることで、トラブルを最小限の被害で食い止める。それが制度の主旨である。

 そのためめんどくさいタバコや手続きのすべてを記憶する必要は……なし!武力コンビニ店員であるために必要なもの、それは……

「キシャーーーーーーーーーッ!!!」

『あーーーーっと!!電気代の処理の僅かなもたつきに苛ついたババアがフライングクロスチョップをかけるーーーーっ!!」

 ナレーションの実況を聞くまでもなく私の体はすでにハンコを持って跳躍!おばあちゃん試験官の頬にカウンターハンコアタックを仕掛ける!!

「ぐへぇっ……!」

「申し訳ありませんお客様!少々お手間を取らせましたが……」

 私は失礼にならないよう顔ではなくおばあちゃんの腹を蹴った!!

「お客様の治療費とともにただいま終了しました!ありがとうございましたーーーっ!!」

 そういって店内のゴミ箱にシュートした。即座に他の試験官がおばあちゃん試験官をボディチェックする。

「後遺症が残るような傷はなし!第一試験合格!!」

「次の試験をお待ちしています」

 私はポーズを取った。そう、武力コンビニ店員に必要なものは、クレーマーを波風が立たぬように鎮圧する、圧倒的なパワー!私は引きこもっている間にやることがなくて鍛えていたので、コンビニごときにクレームを漏らすお客様ごときは一蹴できるパワーを得ていたのだ!

 そうして私は「セルフなのに店員がコーヒーを入れてくれると勘違いして襲撃してくるお客」や「コピー機の説明が理解できないので店員を脅して操作させようとするお客」といったクレーマー・シチュエーションの試験官たちを次々と撃退していった。

 そしていよいよ立ちはだかったのは、あのヤニ試験官だった。

「へっ、嬢ちゃんがここまで勝ち上がってくるとはな……試験は俺で最後だ!だがタバコを注文するやつってのは反社会組織も多いんだ……これまでの試験とではレベルが違うのをおしえてやるぜぇーーーーっ!!」

 試験官がタバコの台に指をさす。

「いつものやつをよこしなぁ!!」

「申し訳ありませんお客様、タバコの銘柄でお答えください」

 私は丁寧にそう言いながらも拳法の構えを取った。

「ああん?てめえ俺がいつも頼んでるタバコ知らねえのか~ん?」

 じり、じりとレジを挟んで間合いを微調整する。戦いはいつ始まるのかわからない。敵がどのような武器を持っているのかも不明だった。

「申し訳ありませんお客様、わたくし新人ですので」

「てめえんとこのコンビニは……新人ってのをお客様への言い訳にするってのかぁーーーーーーっ!!!」

 そういいながら試験官が取り出したのは……マグナム!!牛すらも一発で倒れるというモンスター・ガン!だってミリオタの弟なら言いそうな気がする!タバコの種類も覚えるのが面倒な私は銃の種類も覚えていなかった。そして面倒を嫌う私は面倒なお客をあしらえるはずだ。

 私は試験官の腕をさばき銃口をそらした。放たれた轟音がタバコ棚を破壊する。くっ、減点要素。しかし生半可なものではマグナムの弾丸を空中で無力化することは不可能だろう。痺れるような衝撃を感じながら私は手刀を試験官の喉元に叩き込む。相手が銃なら私は手刀だ。しかし試験官は意外と身のこなしが軽かった。回転するようにそれをかわし回し蹴りで私の腕を弾く。

 私は強敵と判断しおでんの汁で応戦を試みた「おでん・ホットヒット・スプラッシュ!!」

 おでんの汁のショットガンが試験官とマグナムを襲う。マグナムの無力化には成功したが筋肉をおでん汁以上に加熱させた試験官はそれをも無効化する。本気の強敵だった。

「お客様、大変やりますね」

「へへへ俺の技をここまで耐えたのもてめえがはじめてだぜ」

 私と試験官は手元にあるコンビニ商品をフルに使用し攻防した。スナック菓子が飛び散り、乾いたカップ麺の破片が空中に舞う。双方ともに狙うのは武力コンビニ紛争における究極の大技、電子レンジ人体調理だ。電子レンジに頭を先に入れたほうが自動的な勝利となる。

 瞬間、別の客役の人間が店内に入ってくる。トラップ。店員は入ってきたお客様相手にはいかなる時でも挨拶をしなければいけない。試験官の狙いがその一瞬なのは明白だった。だが、これは私にもチャンスだった。

「いーーーーらっしゃいませーーーーーーーっ!!!」「なにっ!?」私はあらん限りの大声を出した。その衝撃波により試験官が一瞬ひるむ。私はその隙を突いた。頭部を電子レンジに入れられた試験官は奇声をあげ電磁波の洗礼を浴び、動かなくなる。来店したお客様にも失礼なく、戦いを終わらせる。これで私の勝利だった。やった、親にも顔向けできる。

「勝負あり!!」

 レフェリーのその言葉とともに、電子レンジから試験官が立ち上がった。よろめいているも、生命に別状はない。私とて相手が屈強な人間でなければ電子レンジ人体調理は使わない。その見極めまでも完璧に行ったのだ。

「ただいまの勝負の結果ですが……」

 かしこまったヤニ試験官が言葉を告げる。

「……大変残念ながら不採用の運びとなりました。次の戦いでのご健闘をお祈りします」

「なんですって!?」

 信じられない言葉だった。私は常にコンビニ店員としての気配りを忘れずに無力化のための武力に徹していたはずだ。

「後学のために、不採用の理由を聞かせていただいても構わないでしょうか」

「確かに嬢ちゃんの戦いぶりは完璧だった。俺も久々に心躍る戦いだったよ。だが、お嬢ちゃんはひつだけミスをしたんだ」

「ミス?あっ……!」

 私はもう自分の敗因に気づいていた。

「電子レンジでものを温める前は……「温めますか」と聞かなくてはならない……!」

 それが私の高認の敗因だった。
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