お題:寒い車 制限時間:1時間 読者:19 人 文字数:2128字

おやすみなさい
「早くおうちにかえりたいね。」
「パパが早く帰って来ればきっと帰れるよ。かなちゃんはちゃんとパパを待てるかな?」
「かなは良い子だから、待てるよ。だってパパと約束したんだもん!」
車が一台駐車場にポツリと止まっている。外はもうすぐ冬が来るようで涼しいを通り越して冷たい風が吹いていた。
「パパ早く来ないかなぁ。」
「大丈夫。ちゃんと来るよ。」
「かなもパパと一緒にいきたかったな。」
「僕がかなちゃんと一緒にいるよ。だから大丈夫。」
「そうだよね!寂しくないもん。」
「僕はかなちゃんの笑った顔が一番好きなんだ。」
「うん!だからいっぱい笑うの!」
車の中で声が響く。車の外は静かで人気は無い。
「かな、少し眠くなっちゃったかも。」
「待つのって疲れるもんね。少し寝てれば良いと思うよ。起きたらきっとパパが戻ってくるから。」
「わかった。少しだけ寝るね。おやすみ。」
少女は横になり、丸くなる。その小さな身体は温もりに満ちながらも冷たさが沁み始めていた。そっと彼女の髪を、頰を撫でる。僕は君を幸せにしないといけない。どんな方法でもきっと。君は喜んでくれるだろうか。
太陽は眠り始めて月が一台の車を空から覗いている。
「パパ、ママはもう戻ってこないの?」
「パパ……どうして、」
しばらくすると少女は目を開いた。やはり状況は変わっていない。
「パパ、来ないね。」
「かなちゃん、寂しい?」
「すごく寂しい。けど、大丈夫だよ!」
笑顔を無理矢理作ろうとしている少女。しかし、彼女が寝ている時に涙を流していたのは知っている。その涙がいつか凍りついてしまいそうで、僕は怖かった。
「さむくない?」
「僕は寒くないよ。ありがとう。かなちゃんは優しいね。」
少女の優しさを僕は知っていた。そして救われていた。
「もう少し寝たら?」
「眠くないもん。」
「寝ても良いんだよ。もう夜になってしまったから。怖くないよ。大丈夫。」
「パパはかなのこと、嫌いなのかな。」
「そんな訳ない。パパはかなちゃんのことを想ってるよ。」
「ママはどうしてかなを置いていっちゃったの?」
「それは……いずれわかると思うよ。でも、仕方がなかったんだ。かなちゃんは何も悪くない。」
「かなのせいで、ママが、ママが……!」
ついに彼女は泣き出してしまった。もしかしたらそろそろ限界が来ているのかもしれない。
「かなちゃん。もう君は無理をしなくて良いんだ。もうすぐでパパはくるよ。ママにも会える。もう良いよ。もう良いんだ。僕の役目も終わるから。」
「ママに会えるの?」
「もちろん。パパもママもみんな一緒だよ。そして、僕も。」
「パパは私が居て幸せだったのかな?」
「多分そうだと思うよ。あとで会った時に聞いてみたら?」
「うん。そうだね!」
「だから、おやすみなさいしよう?」
「うん!おやすみなさいする!」
「おやすみなさい。もう待たなくて良いんだ。」
少女は眠る。これで良かったんだ。
おやすみなさい。かなちゃん。よく頑張ったね。
もう良いんだ。僕が君を守るから。

とある道で男の死体が発見された。
男の身体は冷えてどうやら凍死したそうだった。

8年前、この男に娘が1人生まれたそうだ。しかし、娘を産んで身体に負担がかかったのだろう。娘を産んだ次の日に彼女は亡くなってしまった。さらに不幸なことにその娘も数日後に突然亡くなったそうだ。ところが男はそこまで不幸だと想っていなかった。なぜなら、それは愛人とその娘だったからだ。その娘が生まれる数年前に男は新しい車を買っていた。理由は知らないし、興味もない。その車に本当の妻も乗せていたし、愛人も乗せていた。愛人には子供が生まれるなら離婚するからと嘘をついていたのも僕は知っていた。愛人と娘が亡くなってから、娘はその車の後ろの席に気づいたら居たようだ。初めは僕も気づかなかったのだけど、泣き声で気づいたんだ。僕は君があまりにも可哀想だと思ったし、男の狡さに嫌気が指していた。だから、少しだけ悪戯をしたのさ。

ある夜に男は1人で車に乗っていた。そして、近くのコンビニにでも行きたかったのだろう。路上駐車をして去っていった。だから、その隙にこっそり車を走らせたんだ。ずっと遠くに。気づいたら誰にも見つからない場所に移動してしまった。でも、まさか死ぬなんて思わなかったよ。数日間、車が無くなるくらいで。確かに僕が居なかったら家に移動できないしねぇ。あ、そうか。男はスマートフォンの充電が無くなったって言ってたかもしれないなぁ。イライラしながら僕のことを散々叩いて田舎で電池切れがあーだこーだ言ってたもんなぁ。本当笑える。ところで僕は誰だって?誰だと思う?人ではないとだけ言っておくよ。あの男は身体を持っているのに温もりが感じられなかったのに対して、かなちゃんは温かかったなぁ。特に横になって眠ってくれると僕も温かくて助かったよ。
さて、そろそろ時間みたいだ。僕を新しく使ってくれる人間も居ないみたいだから僕は廃車になるそうだ。人間は勝手に作って勝手に殺すんだもんなぁ。かなちゃんは僕のこと待っててくれるかな。
大丈夫。行ってくるよ。おやすみなさい。
作者にコメント

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