お題:昼間の快楽 制限時間:1時間 読者:20 人 文字数:1108字

Gift
毛布をかけてやろうとした手がふと止まった。
薄い唇が柔らかく動いて吐息のような声が漏れる。
閉じられた瞼を覆う睫毛は長く、透き通るような色の肌に顔の陰影が綺麗だと思った。
「たいと」
酷く甘い声で呼ばれた。たったそれだけで驚くほどに泰斗の体は動かなくなり、背筋には何かが走った。泰斗はその初心すぎる反応にこんなときに、と呆れた。
「りつ」
名前を呼び、後頭部にそっと手をさしこむ。
引き寄せるような強引さはかけらもなく、誘い込みような甘い手つきに誘われて泰斗が屈み込むと、ふわり、と触れるだけのキスをして、それから律は口元を緩めた。
寝ぼけている。
それを分かっていながら泰斗は泣きたいような気持ちになって強く手を突っ張った。
その衝撃でか、ぼんやりと目が開いていき、しばらく瞬きを繰り返す。そしてハッと目を見開いてソファーの上を後ずさった。

「ごめん、私、なんか」
「あぁ、うん、いや」

大丈夫だよ、と咄嗟には言えなかった。
これではいけない、と思ってははっと軽薄そうな笑みを浮かべた。
「何だよ、律ちゃん唇でも欲しくなったの?」
「‥‥まぁ。最期だし」

思ったよりも愁傷な態度に、笑いを止めた。
「怖かったらやめてもいいからな?」
そう優しく言うと律は静かに首を振る。
「やめない。大丈夫」
全ての覚悟を決めたような顔でこちらを見上げてくる。
とうとうこの日が来てしまった。
明日、律は他の男と結婚する。律のことを大して知りもしない男と。

「泰斗こそ、いいの?」
そう言いながら渡してきた薬。覚悟はとっくにできている。
「お前がいないなら要らない」
そう言うと嬉しそうな、そして少し悲しそうな顔をした。そして、律は泰斗の前に立ち
「‥‥良いときも悪いときも、富めるときも貧しきときも、病めるときも健やかなるときも、死がふたりを分かつあとも、愛し慈しみ貞節を守ることをここに誓います」
と言った。
「俺も、良いときも悪いときも、富めるときも貧しきときも、病めるときも健やかなるときも、死がふたりを分かつあとも、愛し慈しみ貞節を守ることをここに誓うよ」
そう律に伝えると、泣き笑いを浮かべた。
「うん、うんっ‥‥来世で‥‥」
「来世こそ、次こそうまくやろう」
そう言い合いながらハグをして、キスをした。
手を繋いだままに薬を飲み、火をつける。目張りもした。
2人で横になって他愛のない話をしながら時を待った。
律がうとうとし始め、頭を撫でていると段々と眠気が襲ってきた。この寝る前の独特な感覚に身を任せ、来世に想いを馳せた。
「あい、してるよ」
その言葉を残して意識を手放したかった。

かみさまは、残酷だ。
作者にコメント

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