お題:かっこ悪い大地 制限時間:2時間 読者:19 人 文字数:3538字

墓荒らし
 「さ、さあ着いたぞ……」

 眼前に広がる光景に、思わず生唾を飲み込む。

 月明かりに照らし出されているのは、放置されて荒廃し切った墓地。

 「ねえ、本当に行くの?」

 怪訝な表情で尋ねるコーネリアに、余裕しゃくしゃくと言った表情で応える。

 「当然だろ? この墓地に現れるというゴーストを倒すことが今回の依頼内容なんだ。ここで引き返したら明日の宿代にだって苦労することになる」

 どこか冷めた態度のコーネリアの表情が一変したのはその時だった。

 「ああああああ、で、出たああああ!」

 不意打ちすぐる……怖いなんてもんじゃない。コーネリアの驚きと恐怖の入り混じった顔が余計にチキンな俺のハートを強張らせ、足ががくがくと震える。

 「……冗談よ」

 コーネリアは再び冷めた目で俺を見てくる。おのれ女狐め……謀ったな!

 「おいおい、これじゃあ先が思いやれるぞ坊主。本当に大丈夫なのか? しっかりしてくれよ」

 筋肉質のオッパが腕を組んで気まずい顔をしている。パーティーリーダーの俺がしっかりしないと、このままでは信頼が得られない。コーネリアは本当に余計なことをしてくれたもんだ。

 俺の怖がる姿をみて腹を抱えてゲラゲラと転げまわっているのは、セブンス・センスと言われる運が異常に良いという能力を持った、人の言葉を話すハゲワシ。

 「おいハゲ! 笑い過ぎだぞ。それ以上笑ったらお前の羽を全部むしり取ってやるからな」

 ハゲというのはもちろんハゲワシのことだ。名前が気に入らないのかそう呼ばれるとむっとした表情を見せて黙り込んでしまうので面倒がかからなくていい。

 「やれやれ、本当に臆病者だなあダイチちゃんは。そんなことじゃ異世界から来た勇者様だなんて誰も思ってくれやしないぞお」

 髪の長い優男は、俺の頬っぺたを両手でむにむにしながら微笑んでくる気持ち悪い奴だ。

 「あれあれ? こうされるのが好きなくせにどうしてそんな顔をするのかなあ?」

 嫌だからに決まってるだろうが!

 「……いい加減にしないとお前の腕をへし折るぞ」

 たじろぐ優男の名はハインツ。腕力はないが、こう見えてパーティーの中で最大の攻撃魔法の使い手だから関係を切るに切れない。

 「い、いやだなあもう。これくらいで本気で怒るなんて君らしくないぞお。このハインツ、命に代えてもダイチちゃんの命を守って見せるから、ね、機嫌なおして」

 いつもの俺ならぐっと堪えるところだが、今はそんな心のゆとりはどこにもない。

 なんたって墓地に巣くう悪霊を退治しなければならないのだ。はっきり言って相性は最悪。

 戦闘云々よりも、その存在自体が怖い。しかし、先ほども申した通りお金には代えられないのですよお金には! 気が狂ったゾンビにでもなったつもりで戦わなければやってられないぜ。

 「ダイチ、後ろ! 後ろ!」

 まあたコーネリアか。もうその手は食わねえよとばかりに白い目でじっと見る。

 「危ない!」

 ああ……何か急に寒気が……あああ……

 「ど、どうしたんだ俺……寒い……それに何だか体が勝手に──」

 ハゲワシが涙を流してゲラゲラ笑っている。急に踊りだした体とは裏腹に、大変気持ちが悪い。

 今にも胃液を吐き出してしまいそうな気分だ。

 「と、止めてくれ……」

 ゲラゲラと笑っているのはハゲワシだけではなかった。俺の体を乗っ取ったゴーストが笑いながら俺の体を操っている。

 オッパが頭を抱えてため息をつくのも無理はなかった。

 「ダイチちゃん、待ってなさい! 今すぐに僕の究極合体魔法、“ほとばしる肉体の宴”でその体から悪霊を追い払ってあげるからね!」

 俺の体の自由が利かないことをいいことに、この状況で歪んだ欲望を猛烈な勢いで満たそうとしてくるハインツに恐怖を覚えた瞬間、コーネリアが足をひっかけてそれを阻止した。

 「ぐぬぬ……おのれコーネリア……愛しい我がダイチちゃんを救うために全身全霊で救助に向かっていたというのに、貴様はなぜ邪魔をするのかああ!」

 「私が止めなければ今頃は筆舌に尽くしがたいおぞましい状況になっていたでしょう!」

 「この世界には、いやたとえ異世界だろうと、それを望む紳士淑女だっているというのに貴様はああ!」

 もはや憑りつかれた俺のことなど気にもかけず、コーネリアとハインツが高度な戦闘を繰り広げ始めた。その間も墓地で虚しく踊り狂っていたが、オッパには魔力がないのでどうすることも出来ずにただ頭を抱えているだけだし、ハゲワシはゲラゲラ笑い続けていた。

 「いい加減に…いい加減にしろおおおおおおおお!!」

 魔力を全力解放し、ゴーストの呪縛から何とか逃れることに成功した俺は、間髪入れずに魔剣ネクロフィリアで真っ二つに両断し、剣にその魂を喰らわせた。

 「おお、出た出た! ダイチちゃんの剣は本当に凄まじいねえ。どうしてそんなおぞましい剣を持っていながら、怖がりさんなのかなあ? そんなところもお兄さん大好きなんだよねえ」

 いつか絶対こいつも剣に喰らわせるんだと固く心に誓った。

 「すまんな、何もしてやれなくて。普通の攻撃はまともに通じない相手だ。酒場で待っていてもよかったんだが……」

 オッパはすまなさそうに言うが、酒場で待たせる気は毛頭ない。微塵も。

 「あなたのせいで大切な資金が全部飛んじゃったんだから、酒場で待たせるわけないじゃない。20万3000リールも使って、まだ飲み足りないっていうの?」

 コーネリアが白い目でオッパを睨みつける。

 「分かっている。これでも反省してるんだ」

 「まったくどいつもこいつも……とりあえずゴースト退治は済んだんだ。さっさと帰るぞ」

 今すぐここから離れたくて仕方がなかった。墓場を振り返ることなく一目散に走りだしたいところだが、じっと堪えて堂々と歩く。それがリーダーとしての──

 「危ない!」

 あ、ああ……また寒気が……

 腰をふりふり、腕をふりふり。意に反して軽快に踊ってしまう。

 くっハゲワシがまた笑ってやがる!

 『よくも弟を消してくれたな……このまま踊り続けて死ぬがいい』

 ……何とも効率の悪い殺し方だ。とてもじゃないが死ぬ気がしない。

 再び魔力を解放し、魔剣ネクロフィリアにゴーストを喰わせる。

 『あっ』

 何とも言えない気の抜けた声が奴の断末魔だった。

 「さっすが私の見込んだダイチちゃんだね! 同じ手に二度も引っかかっても動じない精神! それでこそ異世界から来た勇者様♪」

 お前、さっき俺のこと臆病者呼ばわりしてたんじゃなかったのか……いや正しいけど。

 こんなやり取りが常時このテンションで行われるので正直もう心が疲れてる。

 「コーネリア、今ので最後か?」

 彼女は首を横に振った。

 「あれを見て、あそこにいるのがこの墓地の亡霊たち。あれで全部よ」

 夜空に不気味に飛び回る青白い霊たち。不気味な笑い声が木霊していることに今ようやく気がついた。

 「ええい! 面倒だから墓地ごと消し去ってやる!」

 魔剣ネクロフィリアを大地に突き立て、地の底から墓地へ、そして上空に漂うゴーストたちへ向けて極大魔法“レイ・ライン”を放った。

 『あっ』

 気の抜けたゴーストたちの断末魔が一斉に木霊して、墓地は巨大な縦穴を残して跡形もなく消え去った。

 「終わった終わった。さあ帰って報酬を頂こう」

 「馬鹿なの……? 墓地に巣くったゴースト退治は依頼されたけど、全て消し去れとは言われてないじゃない! 依頼者の墓地を消し去ったら報酬なんて貰えるわけないでしょ! 一体どうするのよ!」

 うっ確かに……コーネリアの覚めた視線が突き刺さる。

 「ダイチ、カッコワルイ!ダイチ、カッコワルイ!」

 おのれハゲワシ……今夜は鳥鍋にしてくれるわ!

 「……ふっふっふ」

 うわ、何だ気持ち悪い! オッパ、そんな笑い方だったか?

 「こんなこともあろうかと、1万リールを力づくで取り返しておいてよかった」

 ……は?

 「いや、なに。ちょいとおどかしたら店の主人が全額返すから出て行ってくれと──」

 魔剣ネクロフィリアの切っ先がオッパの首筋をかすめた。

 「何を勝手にお尋ね者になってくれてるんですかねええええ???」

 「ほらほらみんな落ち着いてえ! お金なら僕が払ってあげるからあ。1万リールは返してきなよお」

 ……駄目だこいつら。
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