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お題:最弱のサラリーマン 制限時間:15分 読者:15 人 文字数:1071字

少しだけ強くなった日
静まり返った街中を、レールを軋ませながら電車が走り抜ける。酒で酔って寝ている人、大声で喋る化粧の濃い女性、疲れ切った顔で携帯を見るサラリーマンの群れ。私もその中の一人で、今後もそれは変わることはないのだろう。世界は今日も大きく動いて、ニュースではやれ大企業の会長がどうのやれ芸能人がどうのと騒いでいるが、そのどれもが関係のあるようでない、遠い世界の出来事だ。ああいう世界が関係あるのは、この世界において強く自分の居場所があって、世界に干渉できる世界の末端にいる私のような弱い存在とは真逆の人々なのだろうと思う。いっそ、死んでしまえば少しくらい――例えば会社の上司、例えば家族、例えば友人、そんな限られた範囲だけれど――影響は残せるんじゃないだろうか、などという馬鹿な考えが頭を過ぎる。過ぎるけれど、死ぬ勇気なんてどこにもないからただ今日もだらりと生きていく。幸いなことに、家に帰れば妻がいる。とはいえ、私が帰る頃にはとっくに寝静まっていて、むしろそれが少し寂しかったりするのだが。
電車を降りる。静かな街中を自分の足でゆっくりと歩く。誰でもない、誰に影響を与えることもない自分が存在していることを確かめるようにしながら、一歩一歩歩みを進める。すると、然程時間もかからず我が家の明かりが見えてくる。
――明かり?いつもならもうとっくに電気は消えているのに。何かあったのだろうか。少しだけ早足になり、歩きながら鍵を探して鞄を漁る。玄関の扉の前に立つと同時に、鍵を取り出す。そして、扉を開けたその先では、妻が神妙な面持ちで立っていた。
嫌な予感がした。けれど、それを口にすることはなく。世界の中できっと一番弱い私がそれを拒むことはできないと、妻の言葉を待った。永遠のように感じる、ほんの少しの沈黙の後、妻が口を開く。
「お帰りなさい、あなた。」
「あ、ああ、ただいま。珍しいな、起きてるなんて。」
いつもと変わらぬ口調で話す妻に少しばかり、いや、大きく動揺しながらも次の言葉を待つ。しかし、それから沈黙が続き、耐えきれなくなった私は口を開く。
「えっと、どうしたんだ、何か、あったか?」
私はいつも通り言葉を紡げただろうか。その答えを知る由はなく、ただ妻はゆっくりと口を開く。
「あのね、落ち着いて聞いてほしいんだけど――」

予想外の言葉だった。その言葉は想像したような悲しい言葉ではなく。私は、誰にも影響できない弱い人間ではなくなった。ほんの少し、たった一人の人間にだけれど、けれど、その人間にとっては誰よりも強い影響を与える”親”となった。
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