お題:賢い伝承 制限時間:30分 読者:80 人 文字数:2107字
[削除]

開かない扉 ※未完
 夜の校舎に生徒が侵入することを禁ず、なんてルールは大体どこの学校にも存在している。もちろん僕の学校でもそうだ。
 真面目な生徒はもちろんそれに従う。僕は少なくとも今日の昼間までは真面目な生徒だった。
 ただ、夏に汗だくの体操着を持って帰るのを忘れて、しかも明日も体育があるこの日。
 僕は不真面目な生徒になった。

 午後10時の鐘の音は心臓に強く響く。
 小学生の僕にとって、深夜の外出というのはそれだけで一大イベントだ。うちの親は放任主義だが、夏の門限は夕方6時で決まっている。ただ外に出ること一つ取っても冒険。そんな僕だから、鍵の掛かった校門を乗り越え、警備員が見回りをする校舎に忍び込むのは、まるで潜入系のゲームの主人公になったかのような錯覚を与えてきた。
 遠くでコツコツと階段を歩く音が聞こえる。
 さっき見えた懐中電灯の明かりは東校舎へ向かっていった。僕の教室は西校舎にあるから、たぶん、しばらくは大丈夫なはずだった。
 各階層ごとに東西校舎は繋がっていはするけど、全ての階をジグザグにランダムに見回るなんて動きはおそらくしないだろう。昼間にたまに見る警備員のおじさんは、なんだか腰が曲がっていて、そんなにあくせくと動くのは好きではなさそうな人なのだ。
 だから、気配を殺して、息を潜めて、僕は3Fにある自分の教室へと向かう。
 途中で、2階と3階の間の踊り場にあるトイレが目に入った。

 噂で聞いたことがある。
 このトイレ、夜の10時半にドアを3回ノックして鏡を見ると、鏡の中に『開かぬあの世への扉』が現れるらしいのだ。
 噂の出所は分からない。僕が入学して5年と2ヶ月、実際に試してみたって奴も聞いたことがない。ただ、漠然とした噂だけは何度も耳にしたことがある。

 もしかしたら、僕より前に不真面目だった生徒が試したことがあるのかもしれないな。

 そんなことを考えながら、僕はトイレを素通りして、自分の教室へと向かった。
 入り口に手を掛け……るが、ドアが、開かない!
 ドアが鍵穴に引っかかった小さな音が、再び僕の心臓を大きく跳ねさせた。
 今の音は微かだ。でも、警備員に聞かれていたら?
 慌てて、でも音は立てないように、僕は打開策を考える。周囲を見回して――そうだ!
 目に飛び込んできたのは、教室の下にある小さなドア。脱出口なのか通気口なのか、本来の用途は知らないけど、よく鬼ごっこの時の逃げ込み口やらなんやらに使われているそれに、僕は無音で急いで近付いた。
 鍵が……鍵が開いていれば、こっそり中に入れる。
 ひとつひとつ。レールの音を響かせないように、僕は丁寧にかつ急いで確認していく。一つ目、ダメ。二つ目、ダメ。三つ目。ダメ。最後……開いてる!
 こうなってくると、僕は本当にゲームの潜入スパイみたいな気分になって、音を立てずに中へと入ることに成功した。
 進入したドアを一旦閉じ、さっきからドクドクと鳴っている心臓に手を当て、深呼吸をして息を落ち着かせると、なんだかミッションをクリアしたみたいに両手を挙げる。
 そして、抜き足差し足忍び足で、机に向かう。第二ミッションコンプリート。アイテム『たいそうぎぶくろ』は、最早僕の手中にあった。

 後は、脱出するだけ。
 そう思って振り向いた僕の視界の端。出入り口にはめ込まれたガラスの外に、なぜか光が見えた気がした。

 まずい。
 もしかして、やっぱり音を聞かれたのだろうか!?

 僕は口を塞いでその場にしゃがみこむ。机の下に隠れる。光は見間違いじゃなかったようで、目線だけ上に上げると、光の量はどんどん大きくなっていた。

 見る。ドアはしっかり閉めた。
 こっちに気付くな。
 通り過ぎろ。
 通り過ぎて――。もう、戻ってこないで。

 光が近付いてきて、僕は思わずギュッと目を閉じた。
 こつこつと警備員の足音が大きくなる。
 ……そして、遠くへ去っていく。

 口から手を離し、ぜぇ、はぁと深呼吸をした。もう、怖いものは何もないような気がした。
 入ってきた教室の下のドアを再びゆっくりと開き、潜り抜ける。もしかして、警備員の向かった方向へ後を付けた方が見つからない?
 いや、振り向かれたらすぐに見つかるなんて、ばかばかしい。
 僕は元々来た道を戻る。幾度の困難を潜り抜けた僕は、なんだかよくわからない全能感みたいなものを味わっていた。足音はひそかに、それでもスキップみたいなテンポで、階段を下りる。
 そこに、トイレがあった。
 そのとき、時間はちょうど10時半頃だったことに気付いた。というか、このトイレのすぐそばに時計があって、それは自然と目に入るのだ。
 やってみるか? と、僕は頭の中で自問自答した。
 やってみたい、と僕の頭の中から回答が来た。
 潜入ミッションを成功させた僕だ。もしかしたら、『扉』ってやつが見えるかもしれない。

 昼のトイレがにぎやかというわけではないけれど、夜のトイレの中は静寂に包まれていて、なんだか息苦しさがある。
 ちょっとだけ後悔みたいなものが襲い掛かってきたが、
この作品をツイート

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:ななも お題:賢い伝承 制限時間:30分 読者:183 人 文字数:889字
「夜の山に登ると山姥に食べられてしまうよ」 そう語られていたのが最初の記憶。貧しい山奥の集落で母親が子供に語り聞かせていた。「夜の山で迷った子供が泣いていると優 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:たま お題:賢い伝承 制限時間:15分 読者:187 人 文字数:283字
世界中を巻き込む大戦により人間の文明が滅んでからすでに数千年という時間が過ぎ去ろうとしていた。わずかに生き残った人たちは汚染された都市を捨て、自然の中で原始時 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:卵好き玉子 お題:賢い伝承 制限時間:15分 読者:288 人 文字数:308字
「一本の花」この村の人たちは誰もが知っている言葉だ。昔からあるエピソードが語り継がれている。それはこうだ。――12か3ぐらいのある少女がいた。彼女は深い悲しみの 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ねへほもん@気ままな天使 お題:賢い伝承 必須要素:ポテトチップス 制限時間:30分 読者:32 人 文字数:1221字
「家訓」家族の繋がりが希薄と言われる現代においても、家族独自のルールというものが1つや2つは存在するはずだ。私の家にもあった。当時は謎でしかなかったが、長年語り 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:谷矢チカフミ【萌えアカ お題:死にぞこないの愛人 制限時間:30分 読者:10 人 文字数:918字
穏やかで、静寂であるべきホスピスだというのに、昨夜から多くの足音と泣き声が止まない。随分と昔に入院したある老人が危篤となっただけなら、ホスピスという場所柄あり 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:巳々栗ぼっち お題:鈍い作家デビュー 制限時間:30分 読者:10 人 文字数:822字
「……」 僕は白という色が嫌いだ。純白だとか真っ白だとか、そういった『何も手が加えられていないモノ』は特に嫌いだ。嫌悪しているといっても過言ではない。ある意味で 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:小栗ジョン お題:絶望的な幻想 制限時間:30分 読者:15 人 文字数:762字
目が醒めた途端、とてつもない違和感に襲われた。 背中が痛い。どうやら硬い土の地面の上で寝ていたようだ。「どこだ?ここは…」 慌てて周囲を見回すと、見たことのな 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:巳々栗ぼっち お題:私が愛した決別 制限時間:30分 読者:8 人 文字数:786字
初めて好きになった人は、夢を持っていた。その夢を叶えるために、高校を卒業したら街を出るのだと言っていた。 私は彼女と一緒にいたかった。彼女についていきたかった 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:巳々栗ぼっち お題:限界を超えた修道女 制限時間:30分 読者:7 人 文字数:985字
「シスター、これはどこに置けばいい?」 木材を肩に載せたまま、俺は修道女に声をかけた。「あ、それはあっちに……」 つい、と、彼女は木製の長椅子が固められている場 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:やる夫スレ作家のアライさん お題:おいでよ帰り道 制限時間:30分 読者:12 人 文字数:939字
ぼくの村には絶対に通ってはいけない道がある。学校の裏側、どんぐり山のすぐ近く、入り口に小さなお地蔵さんが置かれた小道がそれだ。 小道と言ったが、実際は全く整備 〈続きを読む〉

匿名さんの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:無意識のふわふわ 必須要素:ゲ○ 制限時間:30分 読者:2 人 文字数:1221字
真っ白な雲の上に立っていた。 回りを見渡せばピンクや白のシャボン玉のような球体がふわふわと浮かんでいる。 足元は弾むような弾力で、1歩踏み込む度に体が宙へ飛ん 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:僕の笑い声 制限時間:15分 読者:4 人 文字数:513字
だいたい、僕はひとりで部屋にいるときでも、コメディなんか見ていたらひとりでげらげら笑うタイプなんだけど、姉は全くそういうことはないらしい。「独り言を言う人も、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:愛すべき別れ 制限時間:30分 読者:2 人 文字数:882字
窓の外が抜けるように蒼い。追ってくる大勢の怒号が遠くに聞こえる。まだ声は遠い。相当な距離をつけたようだ。走って走って、脚がもつれ転んでも、青年はひたすらに走り続 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:小さな新卒 制限時間:1時間 読者:0 人 文字数:591字
ふわっと、家の玄関を出たわたしに心地よい春風が吹く。今年大学を出たばかりの新米教師の私は良い1日を迎えられる予感がする、そんなことを考えながら勤務先へ向かう。生 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:出来損ないの光 制限時間:30分 読者:9 人 文字数:906字
2056年11月中旬。技術の発展とは目覚しいもので、某猫型ロボットが誕生する2112年を待たずして高性能AIを搭載した人形ロボットが完成されることとなった。もっ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:昼間のフォロワー 制限時間:15分 読者:5 人 文字数:571字
私はその人のことをよくしらない。ただなんとなくSNS上で気が合って、時々リプライで会話しあうその程度の仲だ。その人がなんの仕事をしているのかも、どんな容姿をして 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:子供の嘔吐 制限時間:30分 読者:1 人 文字数:1008字
幼い頃,それは今よりずっとたやすく己の身に起きたのに,今よりずっと恐ろしいことだった。熱が出たとき,ちょっと泣きすぎたとき,お腹がいっぱいなのに欲張って食べすぎ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:鳥の四肢切断 制限時間:15分 読者:0 人 文字数:543字
狙いを絞った。 距離、角度、そこから予想される目標への弾道予測。 今まで何回、何万回と繰り返してきた事。 今回だってまったく同じ、今までと同じように狙いを定め 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
夜の思い出 ※未完
作者:匿名さん お題:夜のふわふわ 制限時間:15分 読者:0 人 文字数:562字
夜の闇を何かが通り過ぎるのを感じた。物であるのかというと少し違う。感覚的に通りすぎたと感じただけで、実際に通り過ぎるのを目撃することはできなかった。まぁ暗すぎて 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
お恵みを ※未完
作者:匿名さん お題:哀れな兄 制限時間:30分 読者:2 人 文字数:503字
「悪い、少し恵んでくれないか」 嫌気が差すほど聞いた台詞だ。 振り返る。みすぼらしい格好をした男がへらへらした顔で私を見ている。媚びへつらったその様は見ているこ 〈続きを読む〉