お題:昼間の瞳 制限時間:30分 読者:19 人 文字数:966字
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目撃者、太陽
 呪術師は荒い息をなんとか鎮めようと苦労していた。

 深呼吸を繰り返し、咳き込み、そこでようやく足を止めることを自分に許すことにした。
 立ち止まると、それまで「歩く」という行為に集中することで無視できていた苦痛がどっと押し寄せてくる。それは周囲の熱気、身にのしかかる担いだ荷の重さ、そして全身をさいなむ疲労だ。その強さと言えばもはや痛みに近く、思わず気が遠くなりそうなほどだ。

「……独り立ちのための不眠の試練以来だな、これは……」

 唇をかみ、言葉を紡ぐことで、なんとか意識をつなぎ止める。
 なにしろ場所が場所である。ここで気絶でもしようものなら、あっという間にカラカラのミイラになってしまう。
 ここは南の大砂漠。
 灼熱の陽光が容赦なく大地を痛めつける、水から見放された土地なのだ。

 呪術師は太陽を直視しないように、注意して天を見上げた。
 空はどこまでも青く、雲は1片のかけらすら見当たらない。
 呪術師はぶるりと身を震わせた。
 これは「晴天」というよりは「凄天」と言うべきだろうか――ここでは晴れ渡る空に見えるのは死の予兆ばかりである。遮るものなき太陽は恐るべき破壊者としての相をあらわにしていた。

「純粋なるものは、時として不純なる者を灼くとはこのことか……だが、私にはその純粋さこそが必要なのだ。ここでなら、ほかのどこよりも強く、太陽に訴えることが出来る……誰にも邪魔されることはない……」

 呪術師は荷をほどき儀式の準備を始めた。
 取り出したのは太陽の精に訴えるための呪具一式。そして、一振りの短刀である――その刀身には乾いた血がこびりつき、不穏な気配を漂わせていた。
 短刀を手にした呪術師の顔はこわばり、疲労のしたから凄惨な色が浮かんでいた。
 呪術師は、砂漠の上に腰を下ろすと、しかるべき祈りと共に太陽へと訴え始めた。

「太陽よ、真昼の瞳よ、どうか我が願いを聞き届けたまえ」

「この短刀を用いて我が妻を殺した犯人の姿を教えたまえ」

「何者も見てはおらず、しかし、あなただけは見ていたはず……世界で唯一の目撃者、太陽よ、我が復讐のために願いを聞き届けたまえ!」

 呪術師の声は次第に大きく強くなり、焚いた香の煙と共に砂漠の熱風に乗り、天高く昇っていく。
 灼熱の太陽を目指して。

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