お題:日本式のフォロワー 必須要素:力士 制限時間:1時間 読者:47 人 文字数:3577字 評価:0人

力士契約
へ、へへ――
そのような笑いが口元から自然と漏れた、自棄と満足の入り混じった、きっと歪んだ笑みだった。

周囲からは、人間どもの声。
私を追って来ている者たちの声。
地獄の猟犬の方が百倍はかわいらしいに違いない、歪んだプライドを振りかざして酔っている声だった。

森の奥、半分地下のようになっている地点に身を潜めているが、いつ見つかってもおかしくは無い。
声が聞こえる距離と言うことは、そういうことだ。

これに対する、私が抵抗するための術は二つ。
一つは催眠術――対個人に対しては無類の強さを誇るものだが、今この時、多数から追いかけられている状況では、実はあまり役に立たない。かけている最中に、横から斬りつけられたらオシマイだ。さすがに一人きりで突っ込んでくる英雄願望の奴はもういない。くそ、半端に賢い対処法をやりやがって。

そして、もう一つは――

「上手く行ってくれよ……」

召喚の術。
それも完全にランダムながら、なぜか対象は人間種のみという使い勝手の悪さのものだった。催眠と併用すればなんとかなるが、それでもいつ解けるか分からない、ハラハラドキドキの賭けだった。

祈るように、私は術式に魔力を注ぎ込む。
周囲の声が一瞬、止む。
マナの活性化により、この位置は完全にバレた。もう時間はない。

祈るように光を増す魔法陣を睨んだ。
一秒、二秒、三秒……
恐ろしく時間が経つのが遅い。いつもであれば、もっと早く出たはずだというのに、どうやらやけに遠い場所の『人間』を呼んでしまったらしい。

――ちょっとした混乱を起こしてくれる、そんな奴でいいんだよ……!

心の中の文句はランダムには届かない。

いたぞ、ここだ――!

私を発見したらしき声が聞こえる。
本当にすぐにでも、ここに彼らはやって来る。

それに対するように、ゆっくりと、魔法陣の中央から持ちあがるように人影が現れた。待ちに待った援軍、私の切り札となるべきもの。けれど私は唖然とした。
一つには、想像を超えた巨漢だったからだ。縦はもちろん、横にも大きい。
また、それ以上に裸だったからだった。いや、腰に下着にしてはやけに分厚い何かを身に着けてはいるが、ほぼ蛮族の様子といって違いない姿の、おかしな髪形をした奴が、現れていた。

「――む」

何を言い出すより前に、私はそいつに抱き着き、顔を覆うようにしながら、術をかける。
いつものように手軽に――と思う気持ちをすぐさま消去、残りの魔力すべてを催眠に注ぎ込む。額に冷や汗が一気に湧き出る。
予想外の反発があった、やけに分厚い魔力の障壁、なんだコイツ、こんな恰好なのに魔術師なのか?
かける魔術も、ごく簡単なもの、複雑なものはかけられない、ただの認識の変換だ。

そう、角を生やして肌も浅黒い私を『人間』と認識させ、周囲の接近してくる者たちを『魔族』と誤認させる。そのくらいしか、この相手にかけられる術がない。
確実にかかった手ごたえを感じながら、私は手を離す。途端、想像していたよりも理知的な顔が、わたしを見返した。

「……これは、何事だ」
「助けてください!」

精一杯の演技で、私は言う。

「悪い人に――いや、ええと、悪い『モノ』に追われているんです、あなたしか頼れる人がいません!」

馬鹿みたいに他人を頼るばかりのクズのマネをする羽目になるとは、思わなかった。
だが、生き残るためだ。選択肢はない。

「そうか――」

不思議そうに私を見た後、そいつは何でもないかのように。

「力士としては、か弱きものに頼まれれば、応えざるを得ないな」

いや、私、あんたのこと思いっきり騙してんだけどね?
そのように思う間もなく、そのリキシとやらは、高々と足を上げ。

「吻ッ!」

『大地を蹴った』。
決して、その場の足踏みだとは思えなかった。
なぜって、確実に揺れた、地面そのものが、蹴られて慄いた。
喚きながら迫ってくる騎士団とやらが少し混乱したくらいだ。

「このようにか弱きものを寄ってたかって襲い掛かるとは、貴様ら、恥を知れ――」

そのリキシの目には、襲ってくる者たちはきっと魔族に、人ならざるものに映っている。だからだろうか。

「どすこい!」

人間および馬が、ただの一撃で消し飛んでしまったのは。
膨大な魔力、それも指向性を揃えた一撃は生半可な防御を焼き尽した。
まるで陽光がこの場に一瞬だけ現れたよう、それが撫でるだけで騎士のチャージが馬の脚四本の投擲だけになる。
いや、けど、それだけじゃない、それだけじゃ説明がつかないことがある。術そのものの性質が違う。あれは、まるで――

「相撲とは神事、富み栄えることを願い、邪を払うものである!」

そう、神官とやらが行う邪気祓いのようだった。
一方的に消滅させる、絶対的な力。こちらが悪であると認定してくる、おぞましい力。
それが、なぜ――

「貴様ら全て、払ってくれる!」

凛とした姿で、再び『払う』。
ただ一方的に周囲の人間が消し飛ぶ。

ようやく認識が理解に行きつき、やばい、と、やった! という気持ちが同時に私の中に訪れた。
このリキシは今、周囲が邪悪なものたちに見えている、それに対して「魔を払う力」をぶつけた。
強く信じた、狂信にも似た神官の祈りが、対象を消滅させたように。

このリキシの、この世界のことなど何も知らない者の、強烈な信念。それが周囲を「魔」と認識し、払ったのだ。
私の催眠の力によって、『ただの人間が払われる』事態を起こしていた。

――これ、リキシにバレたら、私、死ぬよね。

同族殺しをさせたわけだから、当然だ。けど同時に。

――このリキシは、一方的に人間を消滅させる力がある、これは、この上ない戦力だ……

それも、首輪つきだ。

――自分が騙されていると知ったら、絶対に怒り狂うだろう。だけど、それ以後、きっとリキシはこの力は振るえなくなる……

勘違いによって、人間を消し飛ばしたのだ。
その力を今度は私に向けようとしても、心のどこかで疑いが生まれるはずだ。「また騙されているのではないか」と。
催眠が溶けた時点でこのリキシは大幅に弱体化することになる。

は、はは――
と歪んだ笑みがこぼれた。

リキシは周囲の騎士たちを一方的に屠っていた。
本来なら血しぶきが上がるはずの阿鼻叫喚は、そのリキシのどこか神々しささえ感じさせる威力により『綺麗に』消し飛ばされている。

たとえば上半身だけが。たとえば鎧もろとも右腕だけが。たとえばその頭部だけが。
締めとばかりに、また再び足を上げ、振り下ろした一撃により、半端に残っていたもののすべてが『綺麗に』なった。
聖域だとでもいうように、澄んだ空気だけが吹き渡る。

なんて、皮肉な――

そう思うことしかできない。
私は半端な顔のまま、のっしのっしと近寄るリキシに、「助けてくれてありがとうございます」とか、そんな適当なことを言った。

「あの――」
「なんだ」

その、騙されているなどとは微塵も思っていない、清々しさを感じさせる顔に向け。

「私に、付いて来てはもらえませんか?」

恐れと興奮とを隠し、必至に頼んだ。
実際、いろんな意味で私の命がかかってる。

「ふむ――」

しばし悩んだリキシは。

「いいだろう、よろしく頼む」

迷いない顔で、そう頷いた。


私はこっそりと心の中で快哉を上げた。
ただ一方的に駆逐されるばかりだった魔族、私たち、その逆転の目がようやく見つかったのだと。

「ああ、だが、代わりに一つ、あなたに頼みたいことがある、いいだろうか」
「え、ええ、私に叶えられることであれば」
「よし、あなたにしかできないことだ、よろしく頼む」
「は、はい――」

そんな約束をさせられたことなんて、まるで問題じゃないと思ってしまったくらい、浮かれていた。


ちなみに、私がかけた渾身の催眠術はこのリキシの瞬き一つで既に消し飛んでおり、このリキシは周囲をありのままの姿で視認しており、その上で『魔』と認識し、あの力を振るったと知ったのは後になってからのことで。
つまりは私の姿もそのままのものを認識し、その上で数々の事をやらかしたのだと気づいたのも手遅れになってからで。
このリキシが召喚前には実は「史上もっともクレイジーな大量殺人犯力士」として名を馳せていたと知ったのは更にその後のことで。

「約束は、守ってもらえるのだろうね」

先ほどの契約の履行を果たすように迫られたのは、さらにもっと後の、いろんな意味での私のピンチを招く場面なのだが、そんなこと、この時の明るい未来の展望にうかれる私には、まったくあずかり知れないことだった。




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