お題:宿命の家事 制限時間:15分 読者:25 人 文字数:1165字

家事がトクイ
「わたし、家事がトクイなんですよねー」
 彼女はにこやかにそう言った。
 なるほど、それは褒められるべき能力なのだろう。しかし、それをアピールする場面は今ではない。
「お嬢ちゃん、そういうのは見合いの時にでも言いな」
 俺は彼女をその背にかばいながら告げた。
「この場は、家事よりも火事の方が近い場所だぜ」
 ニヒルなセリフを精一杯言ってみたのだが、彼女の反応は芳しくない。
「何ですか、それ? 上手く言おうとして失敗してますよー」
「うるさいよ!」
 俺は曲がり角に身を隠しながら、向こうの様子をうかがう。
 気配はしないが、連中は突然出てくる。常識は通用しない。
 あの妙な化物共に、この複合施設が包囲されてそろそろ四時間が経つ。階下はほとんどあの化物で埋め尽くされている。逃げ場のない階上のオフィスエリアに逃げ込んだのはそのためだ。袋のねずみとなってしまった感はあるが、それでも即殺されるよりはマシだ。随分と、マシだ。
「下の階は、多分もう難しいですよねー」
「だろうな……」
 このお嬢ちゃんは逃げる中でたまたま一緒になった。多くの人間が化物に食い殺されたが、それでも一つの命を助けられれば、それは未来を守ることになるのだ。青臭い理想だが、俺はまだこの言葉を信じられている。
「知ってます、あのエイリアンたちのこと?」
「エイリアン?」
 便宜的に「化物」と呼んでいたが、この子はほとんど確信した様子でその単語を口にした。
「そう、エイリアンです。外宇宙からやってきて、トクイブンヤを持つ人をさらっていくんです」
 アクセントからして、トクイブンヤは「得意分野」のことではあるまい。
「ええ、特異分野と書きますねー」
 彼女はそう説明した。
「何だよ、それ漫画か何かの話か? 混乱してるのか?」
 そう問いかけながらも、俺は彼女の自己紹介を思い出す。
 「家事がトクイ」。それは「得意」ではなく、「特異」なのではないか。
「ええ、お察しの通りですー。わたしは特異分野をもつ人の一人ですねー」
 そしてあなたも。彼女はいつの間にか、俺の隣に並んでいた。
「危ないぞ、顔を出すな!」
「いいえ。これはわたし達の宿命ですのでー」
 暗い廊下に彼女が一歩踏み出した時だった。四足の、半液状の体を持った犬のようなものがこちらへ向かって真っすぐ走り込んできた。
 俺は悲鳴を飲み込む。彼女が、堂々としていたからだ。
 流れるような動作で彼女は包丁をどこからともなく取り出した。
「炊事で参ります」
 その言葉が終わるや否や、化物――エイリアンが一瞬で細切れになった。
「できました、どうぞー」
「な……!?」
 彼女は包丁でない方の手に何かを持っていた。
 おにぎりだ……。
「さっきのエイリアン、食べられるようにりょしましたねー」
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