お題:きちんとした星 制限時間:15分 読者:30 人 文字数:1143字

星を描いてみよう
「先生、きちんとした星が描きたいんだけど……」
 自由帳を持ってそんなことを言ってきたのは、この1年2組の中でも物静かな外村くんだった。この子が自分から話しかけてくるなんて珍しいな、とわたしは意外に思いながら応対する。
「きちんとした星?」
「うん」
 うなずくと自由帳の白いページを差し出してくる。
 描け、ということだろうか。
 「きちんとした」がどういうことなのか、わたしと外村くんの間ではっきりしたことが共有されていない。仕事でやると怒られると社会では言うのだろうが、生憎とわたしの場合はそれを読み取ってやるのが仕事だ。
 とりあえず、ぎざぎざと五芒星を描いてやる。
「こういうこと?」
 外村くんはかぶりを振った。ふむ、とわたしは今度は六芒星を描いた。三角形と逆三角形を重ねあわせた、イスラエル国旗に描かれているアレだ。
「そうじゃなくて、きちんとした星だよ」
 これは強敵だ、とわたしは頭をひねる。ひねって、今度は土星の絵を描いた。
「こう?」
「何これ?」
 土星について簡単に説明したが、外村くんはよくわかっていない様子だった。右手で左手の親指を弄っている。集中していない時のこの子の癖だ。
「どういう星が描きたいの?」
「空にあるじゃん。ああいうの」
 ちゃんと言わなきゃ分かんないよ、という指導を入れるべきか少し迷う。
「夜に、こうやって光ってるよね?」
 わたしはボールペンで紙を塗って、黒い夜空を表現した。そこに修正液で点を打つ。
「こうやったりすると、空の星に見えると思うんだけど」
 どうかな、と問いかけるが、外村くんの反応は芳しくない。
「全然違うよ……」
 えー、とわたしは肩を落とす。派手にリアクションしてやるのも教育の一環である。
「あそこにあるじゃん、空のさ」
 外村くんは教室から窓の外を指した。そちらに目をやるが、何もない。ただ初夏の空とぽっかりとした雲が浮かんでいるだけだ。
「雲のこと?」
 星と雲の区別がつかない? 流石にそれはないか。色々と考えてしまうが、どうやらそうではないらしい。「それよりも手前」だと外村くんは言う。
「窓のとこにいるじゃん。星」
 返して、と外村くんは自分の自由帳をわたしの机の上から取り上げる。そして、「きちんと描けないんだけどさ」などと言いつつ鉛筆を走らせる。
「こんなの、いるでしょ?」
 自由帳に描かれていたものを見て、わたしは悲鳴を上げそうになった。それを飲み込めたのは、「教師」という自認のお陰だった。もし、わたしにその立場がなかったら、外村くんのことを突き飛ばして逃げ出していただろう。
「そ、そう、いるの……」
「先生描いてみてよ」
 一刻も早く、わたしはそのページから目を離したかったのに……。
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