お題:失敗の螺旋 必須要素:即興イラストのステマ 制限時間:1時間 読者:54 人 文字数:3679字 評価:0人

歌と呪い ※未完
カラオケボックスは一人で入るもんじゃないなと思いながら、安っぽい廊下を通った。
左右の個室からは上手いんだか下手なんだか分からない歌が不協和音となって響いている。
まるで「ちょっとトイレに行って戻って来ている最中ですよ」という体で、俺は歌々の間を通る。

待ち合わせ場所は奥の奥、どん詰まりにある個室だった。
しばしその逃げ場のない場所で立ちつくし、小窓から覗こうとする。見えない。黒い布か何かが張りつけてあった。たしか風営法違反とかじゃなかったか、これ。
念のため、もう一度送られてきた部屋番号と目の前の個室とを確かめ、軽くノック。当然のように反応はなかった。ただ、聞きなれた声は漏れ聞こえてた。
俺はため息を吐いて、今度は遠慮なしに扉を開ける。

途端、遮られていた音量が鼓膜を打ち付ける。
楽しそうに歌うソイツは、目線だけで挨拶を寄越してくる。歌を止めるつもりはないらしい。人をわざわざ呼んでおいて。俺はもう一度ため息をついて中に入り、すぐに扉を閉めた。下手ではないが、好んで周囲に聞かせたいとは思えないレベルの歌唱を周囲から遠ざけるために。

やたらと暗い内容のフレーズを左から右へと流しながら、俺もワンドリンク注文すべきだろうかとメニューをめくる。
どうして曲ってこんなに長いんだ。一分くらいでいいだろうといつも思う。

「や、よく来てくれた」
「で?」

俺は顔も上げずに冷たく返続ける。

「なんの下らない理由があって、俺をわざわざ呼んだんだ」
「下らないとは失礼だね。ここに来てもらったのはね――」

満面の笑顔でそいつは。

「とても、すごく、とんでもなく下らない用件があるからだよ!」
「じゃーな、おじゃましましたー」
「待て待て、待て!」

マイクで喋るな鬱陶しい。

「なんだよ」
「借金を減らしてあげよう」
「……いくら」
「んー、最後までつきあってくれたら、これくらい?」
「何の用事だ」

深く座り直して言う。

「変わり身早いね、君」

うるさい、どんな下らないことでも、それによって金銭のやり取りが発生するなら価値ある物事になるんだよ。

「君さ、丑の刻参りって知ってる?」
「……丑三つ時に、藁人形作って、そこに五寸釘を刺すとかってアレか?」
「そうそう、あれって今にしてみればリアリティなよねえ。実際にやる奴は「それだけの恨みがある奴なんだ」って言うより、一から百まで単純にヤバい奴でしかないよね」
「……知り合いの神職の奴に言わせると、今でもたまにあるらしいけどな」
「マジで、誰それ教えて」
「話が逸れてんぞ」
「ああ、うん、だからね、現代の丑の刻参りって、なんになると思う?」
「はあ?」
「今、誰か呪ってやりたい奴に呪いをかける方法って、なんになる?」
「そんなのあるのかよ」
「あるみたいだよ」

にやけた面を睨みつけながら、俺は嫌な予感に捉われた。
そう、俺はここに呼び出されたのだ、コイツに。
こんな夜中に。この場所に。

「――」

俺は黙ってカラオケのリモコンを操作し、履歴を呼び出した。

「おい……」
「まず方法その一、時刻は昔と変わらず丑三つ時、午前二時の前後一時間」

指を下りながら言っていた。

「その二、相手にまつわるものを、五芒星に象った中央に置いておく」

よくよく見れば机の上にそれらしいものがあった。普通にジュースやらポテトやらが乱雑に置かれていたから気づかなかった。

「その三、別れとそれを恨むことに関係する曲を、午前一時から三時の間までずっと歌い続ける」

俺は履歴を嫌な気分で見つめる。元彼やら、別れのやらといった特徴的なタイトルがずらりと並んでいた。

「その四、午前三時を過ぎたらすぐに歌うのを止め、室内を真っ暗にしてじっと待つ。呪いが発現したら、それがわかるらしい――あ、呪うのをやめたくなったら、この時点で適当に明るい曲を歌うと止めたって合図になるらしいよ」

俺はちらりと時計を眺める。
ちょうど誂えたように午前三時ちょうどだった。
嫌な気分がずっしりと肩に沈み込んだ。

「そのゼロがあるだろ、それ」
「ん?」

俺は時計から目を離さないまま言う。

「場所が重要だ、その呪いは、カラオケボックスのこの個室じゃないと効かない。他の場所だと意味が無い」
「その通り」

履歴は遡れるギリギリまで、どこまでも「そういう関係の曲」しか入っていなかった。
コイツだけが歌ったにしては、多すぎる量だった。

「ここ、一部では有名らしいよ、呪って不幸にしてくれるカラオケボックスって」
「嫌すぎる宣伝文句だ」

言いながら、ふと疑問に思う。

「なあ」
「ん?」
「それで結局、どうして俺は呼ばれたんだ?」
「暇だから」
「はあ?」
「歌い終わったはいいけれど、何か起きるまで待たなきゃいけないわけじゃないか、だから話し相手やら即興イラスト描く相手やらが欲しくて」
「知らねえよ! 暇なら適当にスマホでも弄ってればいいだろうが」
「あと、やっぱり知りたいし」
「何を」
「本当に呪いって効くのかどうかを」
「……おい」

俺は、おそるおそる机中央にある五芒星を指す。

「あれは、誰の、髪の毛だ?」

満面の笑顔で指でさされた。向かう先はどう考えても俺だった。

「なんで俺のこと呪ってんだよ!」
「他の人を呪って、万が一にも効いたら可哀想だから」
「俺のことも可哀想と思え!」
「だから借金減らしたし?」
「ありがとう! だが安すぎると思えてしかたねえ!」
「目の前に対象がいる丑の刻参りって斬新じゃない?」
「本家のだったら、五本釘でリアルアタックしに行く場面じゃねえの」

げっそりとしながら、俺は周囲を見渡す。当然、何も起きそうにない。そもそも、本当なら部屋を真っ暗にしなければいけないはずなのに、未だに煌々と電気はついたままだ。

「……これさあ」

馬鹿らしいと思いながらも、どこか早鐘を打ちはじめる心臓をなだめながら俺は言う。

「結局は形を変えた、ただのストレス発散なんじゃねえの」
「ん?」
「こういうのをやる人って、鬱屈して発散できない人だろ? そういう人に「呪うためだから」って理由で、無理にでも二時間くらい歌わせ続ければ、いい解消になるんじゃねえかな」
「ああ、そういう面もあるだろうね」
「ひっかかかる言い方だな」
「これさ、人数制限無いことには気づいてた?」
「人数制限?」
「呪う相手じゃなくてね、呪う側の人数に、制限がまったくないんだよ」
「それは――」

先ほど言われた条件を思い返す。
たしかに「一人でしなければならない」というものはなかった。
本家の丑の刻参りだと、やっている最中を人に見られてはいけないという条件があったはずなのに。

「これさ、割と陰湿な意趣返しが発端なんじゃないかな、って思うんだ」
「……どういうことだよ」
「どっちが先かはわからない、けど、とにかく『呪えるカラオケボックス』ってものがあった。そこで、たとえば五人の人が歌っていたとする」

にやにやと、嬉しそうにそいつは言う。

「五人中四人が、別れに関係する歌を歌い続けるんだ、どこか必死に、念がこもった声で」

その光景を、思い浮かべる。
何も知らないで戸惑う人と、鬼気迫る様子で歌う人と、それを手拍子で応援する三人。

「どういうことかは、まったくわからない。けれどね、なんとなくは伝わるんだよ」
「……なにがだ」
「四人全員が、その子の恋が失敗するように願っていることを」

笑いもなく、ただ悲痛な叫びのような恋の歌を、延々と聞かせ続けられる。
失敗しろ、失敗しろ、上手く行くな、失敗しろ――
延々とその声が、その歌だけが螺旋を描いて室内に満ちる。

「そして、その子は後で知る。自分が歌っていたカラオケボックスに、そういう噂があることを。その時、初めて気づく訳だ――自分が、呪われていたことを」

悪趣味だ、と俺は小さく言う。

「そうだね、けど、呪いって本来そういうものだろう? 行為が直接的に何か影響を及ぼすわけじゃないんだ。丑の刻も藁人形も五寸釘も頭に五徳かぶってロウソク立てるのも、それそのものが呪いってわけじゃない――」
「呪い否定か」
「違うよ、そうじゃない」

どこかおだやかに。

「そこまで強く、強く、あなたは恨まれている――そのメッセージにこそ、効果があるんだ」

恨んでいる、という言葉と、恨んでいるという実感を伴った感覚は、似ているようでまるで違う。
そして呪いという行為は、きっと後者を相手に伝えるために行われるものだ。

「……なんつーか、くだらないというか疲れる話だ」
「うん、同感。だからとりあえず即興イラストを描こう」
「なんでそうなる」
「知ってる? 人をそっくりに象るのはかなり原初的な――」
「ステマかと思ったら話続いてるのかよ!」
「借金減らすよ?」
「話を続けて――」

俺たちはいちやを







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