お題:でかい帝王 制限時間:1時間 読者:10 人 文字数:2227字

夢のままで
恐らく意識し始めたのは7、8歳のころからだったと思う。
私の眠るとき見る夢にはしょっちゅうといって良いほど帝王が出てきた。
帝王と名乗る存在が、様々な容姿で、何らかの形で登場するのだ。
動物でもあれば人間でもあって、コイン一枚に描かれていればステンドグラスに描かれた姿のまま話しかけてきたり。
小さい頃は気にも留めなかったけど、いつしか私の心にその大きな存在は引っ掛かり始めた。
そもそも人間は眠るとき、何故夢を見るのだろうと疑問に思うことは、誰しも一度はあると思う。
中には滅多に夢を見ないという人も居るけれど、実際は目覚めたとき記憶にないだけで人間は普通眠っているとき何かしら夢を見ているらしい。
夢は記憶の混合物。
眠りの中、頭の中がその日の記憶を整理している作業の様子が、映像となって表れているように錯覚する、のだとか、何とか…。
まあつまり、その日一日の記憶や感情が、その晩に見る夢を左右すると言って過言でないようで。
無論過去の記憶を掘り起こされる夢もあったりするけれど、確実に言えるのは夢に出てくるものたちは多少なりとも自分とかかわりがあって、記憶しているものの断片ということ。
…聞きかじった話のつぎはぎはこれくらいにして、まあこの話を基準に、私は考えずに居られなかった。どうして私の夢に帝王が出てくるのか。
でも未だにその謎は解けていなかった。私の過去・周囲に帝王だなんて要素はこれっぽっちもない。
20歳を超えても、私の夢に帝王は居座り続ける。
くるみ割り人形の姿で。
流麗な筆の描いた掛け軸の中で。
青色の金魚の姿の時にはしっかり小さな水草の冠を被っていた。
時々これらの姿で私に話しかける。時々私も話しかける。
帝王は聞き取れない言語で話すときもあれば日本語で話してくれる時もあった。
あちらから話しかけてくるときは大抵、
「娘よ、目覚めよ。目覚めよ。我が国の希望よ。お前の目覚めを父は待っている。」
…などと、とんちきなことを話すのみ。
ついむかっとして、貴方は私の父じゃない、私の父はサラリーマンです!と言い返したときもあったが、その時石像の姿をしていた帝王は、顔から体全体にひび割れが走ってあっという間に崩れてしまった。よほどショックを受けてしまったのか…
ただその石像帝王が崩れる様子は何とも物々しい、空恐ろしさを感じて、それから私は帝王が話しかけてきても感情任せに答えないことにしている。帝王自身が、その姿を失くすという描写も、考えてみればその石像の件のみの一度きりで、何だか帝王をまた壊すようなことをしてはいけないように感じる。
全く馬鹿な話だと自分でも思う。
だがどうにも自分にとって帝王は大切にしなくてはならない気がするのだ。
友人にもこのことを相談したことがある。夢の中の帝王を消すにはどうすればいいのか?
前髪に赤いリボンを留めたリツちゃんは言った。「帝王さんと仲良くすれば良いじゃない。」
帝王と私が仲良くなれば、これから見る夢はもっと楽しいものになるのじゃないかという、ミクちゃんらしい楽観的な意見だった。
「明晰夢っていうらしいよ」と切り出したのはトマくん。「慣れれば自分の見たい夢を見られるんだって。楽しそうじゃないか」前髪の赤いリボンを気にしながらトマくんは言う。隣でミクちゃんは話に飽きたと言って泣き出した。リツちゃんは金魚に姿を変えた。
その晩の帝王は今まで見た中で一番大きかった。
玉座に座って陶製人形の姿をした帝王はまっすぐにこちらを見下ろす。
「でっかいね…」
思わず私は零した。
「私が大きいのではない、そなたが小さきことを選んだのだ、娘よ」
娘と呼ぶのは相変わらずドーターという意味らしい。
「娘よ、もう目覚めなければ。いつまで眠っている」
「明日の午前七時まで」
「違う。それは目覚めではない。目覚めたと思い込んでいるだけだ」
「そんなことないよ。明日は学校があるんだから」
「では聞くが、それは何という学校なのだ。どんなことを教わっているのだ。学友の名前はなんという?真に目覚めているなら答えられるであろう」
答えようと口を動かして、私の口から気泡が漏れ出た。私はいつから魚になったのだっけ。
「以前は答えていたな。無論嘘だらけであったが。ジパングの学生であると。25世紀を生きているのだとも言ったな。しかしそれは夢ゆえに、まことでない…」

15世紀、ヨーロッパの小国で、王の娘は落馬した時強く頭を打ったことで、今にいう植物状態となっていた。
当時の植物状態の扱いと言えばほとんど死人同然であったが、王は娘の悲劇を受け入れず、国中の魔女という魔女を招集した。
数え切れぬ呪術的な、もしくは療法が行われ、娘を起こすことのみに時間を費やした。
ある霊的な治療を行った魔女は娘が未来を予言したと言ったが、それは遥か遠い未来の東の島国での出来事であるらしく、周囲の大方は魔女の妄言と決めつけたとか。
しかし父親である王が娘に話しかけたとき、時折娘からぼんやりと反応があったらしい。
僅かな回復の兆し。この時代においてはまさに奇跡とも言える。
だが娘が覚醒し完全に植物状態から解放されたかどうかは、どこの文献を漁っても記録は見つからなかった。
回復の兆しを見せたと記述のあるほんの2年後、国は内戦へと陥り、多くの地域で焚書が行われたらしいと、他国の史実書にそうした一文が見受けられたからだ。
作者にコメント

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