お題:茶色い幻覚 必須要素:イタリア 制限時間:1時間 読者:44 人 文字数:2404字 評価:0人

茶色っていうかオレンジ
「茶色・・・オレンジ色かな?はじめはそういう感じに見えた」
国際興業バスに乗っていると、そういう話が聞こえてきた。後ろから。普通の感じの会話だ。聞くこともなかったけど、でもなんとなく聞いていた。
「うちの近くにあれ何だっけ?バイバスっていうのかな、走っているんだけど・・・」
バイパス、首都高速大宮線、私もその近くに住んでいる。
「そこに居た」
夜、車窓の風景はすでに暗くなっていた。いつもよりもちょっと遅くなったなあ。バスの車内ももう、そんなに混んでいない。帰宅ラッシュの時間は過ぎていた。

「初めて見た時は遠くにいて、だから後ろ姿が見えた」
どうやら話しているその人は、バイパスで誰かにあったらしい。
「バイパスってほら、夜になるとオレンジ色の光が灯るでしょ?」
確かに。心の中で相槌を打つ。首都高速大宮線は高速だけに空高いところを走っている。埼京線みたいに中空を走っている。そんでその下を走る道もあって、そこは普通の道路で、片側何車線かあって、夜になると上の高速の底にオレンジ色の光が灯る。その人はその道の話をしている。私もたまに自転車でロヂャースに行くときとかある。確かに夜になるとオレンジに光る。

「オレンジ色ってなんか安心する色だよね」
オレンジ色ってそうなんだよねえ。知りもしない人の会話に同意する。心の中で。
「で、初めて見た時、後ろ姿が見えて、こっちは自転車に乗ってたんだけど、とても遠くに見えた」
その道は、とてもまっすぐになっている。たまに曲がったりはあるけども、基本的にまっすぐの道だった。まっすぐだったから上に高速ができたのか、高速がまっすぐだから下にまっすぐの道ができたのか知らないけども、私は話を聞いていて、知りもしない人が自転車をこいでて、遠くに誰かの後ろ姿を想像した。さらにその姿がオレンジ色になっていたということも考慮して、背景は夜。ちょうどバスの車窓の風景のような感じ。遠くに時たま天空を走っているバイパスが見えた。オレンジ色の光が点々と灯っていた。

「で、最初は遠かったから、あまりよく見えなかった。あ、あそこに誰かいるなって感じ。オレンジ色に見えるなって感じ。かろうじて後ろ姿かなって感じ」
遠いし、夜だし、大体の感じで見えることもあるだろうな。私も目がよくない。眼鏡をかけている。だからそういうなんとなくのニュアンスは知っているつもり。

「で、こっちは自転車だったんだけど、少しづつ近づいている感じがあった。まあ、そらそうなんだけどね。こっちは自転車、あっちは歩きに見えたから。遠目で見た時からなんとなく歩きに見えてた。そうなると当然スピードが違うじゃない?近づいていくじゃない?自転車なんだから」
うんうん。

「ただ、すこし近づいたあたりから、なんか違和感があって」
ん?違和感?なんだ?

「なんかなあ、自転車のこっちと同じ方向に向かっているはずなんだけど、だから自転車から見ていた時その後姿を見ていたはずなんだけど、背中だよね。最初荷物かなんか、リュックでもしょっているのかなあって思ったんだけど、オレンジ色、全部オレンジ色に染まっている感じで、動いているんだけど、全部オレンジ色に染まっていて、でもなんかねえ、動きがなんかいびつな感じがあって」
いびつ?

「最初夜で、オレンジ色に染まっていて、だから不思議に見えるかもって思った。こっちだって自転車こいでるし、そうまじまじ見たわけじゃないよ。止まって、まじまじ見てたわけじゃない。自転車こいでるし、早く帰りたい感が自分にあるから、ちょっと違和感を感じるのかもしれない。たまたま、マジック的な感じで。でも近づけば近づくほど、なんか違和感があって、オレンジ色に染まっている背中、その背中がいびつに動いているみたいに見えて、まっすぐじゃなくて、なんだろうな、微妙にでこぼこしているというか、曲がっているというか、そうしている間にも自転車でそれに近づいて行っていて」
私は、後ろは振り返らずに、バスに乗っているほかの人を見ると、皆イヤフォンをしていた。後ろの方はどうだかわからないけども、皆イヤフォンをしているように思えた。運転手はさておき、その時そのバスにのっている人の中で私とその話をしている人だけが、イヤフォンをしていないように思えた。

「そうしている間にも自転車でどんどん近づいて行ってる。近づいてみるとやっぱり動きがおかしい。かくかく、かくかくというよりはくねくねしているように思える。夜にオレンジ色の光に灯されて、オレンジ色に染まってて、でもいつまでも通り過ぎるわけでもなく、だからきっと同じ方向に進んでいるはずなんだけど、自転車にも乗っていないのになかなか通り過ぎれない。長いこと視界に入っている。あんまり見ない方がいいとは思うんだけども、自転車の進行方向だし、突然横に飛びのいてひいちゃったりしても大変だからだから視界に入れないわけにはいかない」

「そうしているうちにもどんどん近づいて行ってる。一回自転車を止めて確認しようとは思わなかった。止まったらやばいと思っていたから。止まるっていうのはつまり、気が付いているっていうことだから。だから知らないふりして通り過ぎようと思った。あれだって進行方向を向いているし、そっちに動いているし、だから止まらないでいたら大丈夫だろうって、もうそれしか考えてなかった。それでやっとそのオレンジ色を通り過ぎるってなったとき、見たら、そのオレンジは顔をずっとこちらに向けてた・・・最初から・・・ずっとこっちを見てたみたいで・・・」

ピンポーン。
私はバスの降車ボタンを押した。

次止まります。
機械的な音がしてバスが止まり、私は知らない場所でバスを降りた。

その後は知らない。私は歩いて家に帰った。ずっと気が気じゃない状態だったけど何もいな
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