お題:楽しかった昼食 制限時間:15分 読者:22 人 文字数:973字

ランチタイム
(#138)

 誰かのことが自分にとって大切な存在だったのだと知るのは、いつも誰かが自分の前から去った後。
 理屈では解ったつもりになっているけれど、いつだって同じことを繰り返している気がする。
 数々の存在が自分から遠ざかっていく。その背中を見送る自分の感情。
 いつからか、その時の感情から目を背けるようになっている。
 それは暗に自分の本心を浮かび上がらせているのだけれど、それからも耳を塞ぐ。
 そして僕は遂に、自分の感情を発することすらやめてしまった。

 向かい側に座っている小さな女の子。
 一人は目が合うといつもニコッと可愛らしい笑みを向けてくる。
 もう一人は恥ずかしそうに俯いてはにかんでいるのが常だった。
 僕はそんな二人の女の子が、口の周りを汚しながら昼ご飯を食べる様子を見守るのが好きだ。
 そんな想いが顔に表れるのか、二人の女の子はいつも僕を指差して笑顔を見せてくれた。
 カチャカチャと食器が触れあう音が響く。
 今まではその高音が耳障りなノイズでしかなかった。
 なのに、共に食事をする存在が目の前にいるだけで、まるで小鳥のさえずりを聴いているかのように感じられる。
 感情って不思議なものだ。
 知らず知らずの内に自分の肉体に影響を及ぼしている。
 物思いにふけっている視界の隅に、一人の女の子が食べ物をこぼしている映像が飛び込んだ。
 僕は小さく笑い声を上げながら、テーブルの上に置いてあったナプキンを手渡してやる。
 女の子は嬉しそうにナプキンを受け取り、まずは自分の手を丁寧に拭った。
 隣の女の子も手伝いたい様子で、僕におずおずとナプキンをねだる。
 僕はとびっきりの親密さを顔に表しながら、女の子の希望に応える。
 遠慮がちに目を合わせて歯を見せた女の子は、それはそれは愛らしかった。
 二人がお互いのことを思いやり、助け合っている様子は、僕の心をいつも和ませたものだ。
 それが、幸せ、ってもんなんじゃない?
 頭の中で聞こえてくる柔らかい女性の声。
 僕は声の主の顔をすぐにイメージできた。
 彼女は片方の眉を歪ませながら笑う。
 それは決して皮肉を滲ませているのではなく、彼女にとっては最大限の親愛の情の表れだった。
 口元に塩っ辛い水が一滴。
 そうか、ロボットの僕でさえ、心は存在するのだ。
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