お題:孤独な宴 制限時間:15分 読者:26 人 文字数:664字

私だけが主役の箱
 並々とビールの注がれたジョッキを片手に、何の勉強にもならないような深夜のバラエティーをテレビに映す。あまり使われない折り畳み机の上には、コンビニで買って帰ったレジ横のポテトと、先程届いたばかりの宅配ピザが芳しく鎮座している。
「今月も頑張った私に! 敬意を表して、かんぱーい!」
 防音だけが売りの、安いアパートで声をあげる。隣や上は、上京してきたばかりの若いバンドマン志望が占めるアパートで唯一の会社務めが、私だった。
 うっすらと埃の積もったベースは、今でもそこそこの値段で売れるだろう。いつから触れていないのかもわからないが、売ろうという気が起きた事はない。他の住人達が私より一回りも若いと自覚した昨夜まで、ベースの存在すら忘れていたかもしれない。
 才能がある、と褒められたのは今の会社に入ってから。短期契約のサポートセンター受付私に声をかけてくれた当時の上司が、顧客からの意見で私に気付いてくれた時だ。気を良くした私は言葉のままに契約を更新し、気付けば正社員になり、今も電話口で多くの方とお話をしている。

 私が聞いて欲しかったのは、電話で喋る声ではなく掻き鳴らすベースの音だった。感謝のご意見を下さる顧客は本当にありがたいが、名もない私たちのライブに来てくれるファン達も本当にありがたかった。
 もうあの時のようには動かない指が、ベースに伸びる。メンテナンスもしていなかったベースでは、ただの見よう見まねのような仕草をする事が精一杯かもしれない。だが、折角だから、思い出した記念に独りぼっちのライブを始めようか。
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