お題:でかい音楽 制限時間:15分 読者:30 人 文字数:1016字

魅せるモノ。
 会場全体に響き渡る音楽が流れたら、そこには一人の男ではなく、観客の求めるスターに変れる。
 花道を歩いている時、自分自身の中で問いかける。俺は誰だ。お前は誰だ。
 俺はもう一人の存在ではない。誰かの求めるナニカだ。

 そうしてリングに上がれば、スターは観客に応える。
 相手をぶちかませと願うから、俺は憎んでもいない相手を本気で痛めつけることが出来る。
 耐えろ耐えろと望むから、日常生活では起こりえない痛みに耐える。
 誰かはこう思った。頑張れ、勝ってくれと。
 誰かはこう思った。くたばれ、負けろと。
 だから俺は勝つ時もあれば、負けることもある。それがリングの上に立つと言うことだ。

 俺が無様に負けた時、観客が大きく盛り上がったことがあった。俺は入り口から相手に負けていた。なぜなら相手の方が何から何まで優れていたから。
 俺が静かに勝った時、観客から大きなため息がこぼれた。俺は優れすぎていた。だからその壁に打ち勝てなかった幼い相手に観客は同情していた。
 これは俺が退屈な存在であった時の話だ。

 俺が完敗した時、それでも観客は拍手をしてくれた。恐るべき大きな壁を相手にして、諦めずに立ち向かい続けたからだ。観客は、俺の熱さに感動してくれた。
 俺が苦闘の末勝利した時、会場は俺のモノになった。唾棄すべき極悪党を打ち破り、栄光を手にして、一段上のステージへ上がったからだ。観客は、俺に酔ってくれた。
 これは俺が最上の存在として認められた時の話だ。

 戦いを魅せることは、痛みと付き合うことだ。戦い続けると言うことは、苦渋と隣り合わせということだ。
 それでも、俺は今日も俺ではない誰かの為に変身するしかない。俺のために流れた音楽に合わせて。
 
 俺は小さかった。大きかったのが音楽だけだった。
 俺は大きくなった。それでも音楽はデカいままだった。
 俺はこの音楽に相応しい存在になれたか? わからない。それを決めるのはもう俺じゃない。俺を見た観客のが決めることだ。

 俺にも打ちひしがれて、全てが終わる時が来るだろう。例え観客の中の存在は老いをしらない格別な存在であっても、俺の中にあるそれは、確実に俺と一緒に老いてしまう。
 それでも、俺は変わり続けるだろう。小さい時から大きくなった時、そして下降線を辿っている時でさえ変わらない音楽が鳴り続ける限りは。

 それが、戦いを魅せるモノということなんだ。
作者にコメント

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