お題:哀れな教室 制限時間:30分 読者:45 人 文字数:1567字

廃校のしらせ ※未完
 昼休み、職場での食事中にスマートフォンで流し見していたニュースの見出しに、古い記憶が引きずり出された。
 母校が廃校になるらしい。
 感傷、というほど強いものではないが、思うところはある。いきさつをニュースに読みながら、頭の中で週末の道程を組み立てる。郷里まで、遠くはない。行って、母校を見て、帰ってくるくらいならば充分に余裕がある。
 詳しいことは、道中考えればいいだろう。ついでに実家に寄って、父母を驚かせてみようか。その日は、そんな事を考えながら仕事に戻った。

 そして、週末。
 電車を乗り継ぎ、三時間と少し。ふるさとの駅は、相変わらず寂れている。
 盆と正月には帰省していることもあり、ふるさとの空気は、さほど恋しくも懐かしくもない。どうせまた半年も経たないうちに帰ってくるのだけれども、と思いながら、最低限の荷物だけを詰めたカバンを背負って、記憶を頼りに、駅舎から母校へと向けて出立する。
 狭い町である。その上、意識して歩くと、子どもの姿が驚くほど少ない。休日だと言うのに、あの、子どもたち特有の楽しげな声はまったく聞こえない。途中、公園を覗いてみた。小さい頃、友人たちと遊んでいた公園は、撤去されたのだろう、遊具の一つも残っていなかった。
 こまめに帰ってはいても、どうやら故郷のことはほとんど見えていなかったのだと、こんな時に気付かされる。
 ふとこみ上げてきた寂寥を歩みに変えると、自然、足はかつての通学路をたどり始めていた。
 この道は、こんなに狭かっただろうか。こんなに、短かっただろうか。
 痛んだ標識やかすれた白線を越え、ようやく、母校を前にする。
 錆びついた門は、閉じている。窮屈なグラウンドに、人の姿はない。
 廃校は決まったものの、まだわずかに生徒たちは在籍しているはずだが、休日に訪れる用事は無いのだろう。そういえば、小学校とはそんなものだった気がする。いや、友人とグラウンドで遊んだことは、あっただろうか。

「……あの」

 ぼんやりと母校の姿を眺めていると、不意に声をかけられた。
 振り向けば、初老ほどの女性が一人。いかにも不審なものを見る目で、こちらを見ていた。

「何か、ご用事でしょうか」
「ああ……いえ、すみません。私はこの学校の出なのですが、廃校になるというニュースを見まして」

 口ぶりからすると、この学校の教員だろうか。あらかじめ考えていた答えを、不自然なほどすらすらと口から流し出すと、女性は、拍子抜けするほど容易く警戒を解いた。

「あら、そうだったんですね。もしよければ、中を見ていかれます?」
「いいんですか」
「ええ。もう、無くなるような場所ですから」

 どこか投げやりにも聞こえる言葉だった。
 休みだと言うのに仕事に来ていたという女性の後をついて、母校へと足を踏み入れる。来客者用のスリッパに履き替えて玄関に上がったところで、「お好きなように見てってください」と、女性はどこかへ行ってしまった。その後姿にお礼を言ってから、そういえば、確か向こうに職員室があったなと思い出す。
 とりあえずは、最後に世話になった教室に行こうか。
 比べるまでもなく古い校舎内を眺めながら、階段を上がる。六年生の教室は、二階にある。
 一学年一クラス。一から三年生は一階、四から六年生は二階。分かりやすいつくりをしていた。それは、今も変わっていないらしい。4-1、5-1、6-1と、教室が並んでいる。
 そして、最奥にある六年生の教室の入り口で、思わず、立ち尽くす。
 中にあるのは、教壇と、黒板と、ロッカー。そして、わずかに並んだ机。
 壁に貼られた掲示物は、生徒たちが作った拙いものと、教員の作った連絡用の整ったもの。それも昔と変わらないはずなのに、ひどく、さみしい。
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