お題:正しい汗 制限時間:30分 読者:38 人 文字数:1061字

その顔に流れるものは
 木島にはちょっと変わったところがある。目ん玉が見えないことだ。

 障害があるとかそういう重い話ではなく、常に笑っているので、細目でいつも目ん玉が見えない顔だという意味だ。

 そして三年生の先輩にいじめられているときでさえ、目ん玉が見えることは無いのだ。
 不条理な買い出しを頼まれたときも、時間内にちゃんと目的のものを買えずに罵倒されたときも、
「いつもへらヘら笑ってんじゃねえよ!」
 と、よってたかって蹴られているときも、木島の目ん玉が見えることは無かった。いつも笑ってそれを受け入れて「次からは気をつけます」「気に障ったなら申し訳ございません」と、泣くこともなく笑いながら先輩たちに謝罪の言葉を繰り返すのだ。

 これはこれで重い話のような気もするが、わがバドミントン部ではとにかく下級生は木島をスケープゴートにして、三年生からの不条理な攻撃をかわすしか身を守る術を持っていなかった。ラケットより重いものはやはり持ちたくないものだし、俺もその一人だった。

 そして木島はバドミントンが上手かった。

 練習に不真面目な三年生を差し置いて、一年生ながら団体戦のシングルスメンバーに選ばれたて、地区予選を勝ち抜いていった。
 そしてあと一勝で県大会への出場が決まるという大一番で、木島の試合となり、凡ミスが続いて負けたのだ。
 いつも笑いながら試合を勝ち進む姿に対して、団体メンバーに選ばれなかった三年生たちもそれまでは気にせず応援していたが、負けたのにやっぱり目ん玉の見えない笑顔で帰ってきた姿を見て、三年生たちの感情が爆発したようだった。
「てめえ、負けたくせにへらへら笑ってるんじゃねえよ!」

 それから引退した三年生たちは受験や就職の準備もろくにすることなく、部室に度々訪れては木島を適当にいじめて帰ってゆくのだ。

 
 そんなクソみたいな部活を終えた帰り道、ガットが切れたのでスポーツショップに寄って張り直してもらおうと、いつもと違う公園を通って帰っていると、広場の隅でひとり俊敏なフットワークを繰り返す影を見つけた。木島だった。
 ここで部活帰りにいつも一人で練習していたのだ。
 
 しばらく遠くからそのフットワークを見ていたが、激しい動きにも関わらず、やっぱり木島の目ん玉は見えず、笑った表情を崩さないのは遠目にも分かった。
 けれどその目の横を滴るものがあった。

 それは何なのかわからなかったけれど、フットワークを一時中断し、それをぬぐった木島に向かって俺は歩みを進めていたのであった。
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