お題:正しい汗 制限時間:30分 読者:32 人 文字数:1061字

その顔に流れるものは
 木島にはちょっと変わったところがある。目ん玉が見えないことだ。

 障害があるとかそういう重い話ではなく、常に笑っているので、細目でいつも目ん玉が見えない顔だという意味だ。

 そして三年生の先輩にいじめられているときでさえ、目ん玉が見えることは無いのだ。
 不条理な買い出しを頼まれたときも、時間内にちゃんと目的のものを買えずに罵倒されたときも、
「いつもへらヘら笑ってんじゃねえよ!」
 と、よってたかって蹴られているときも、木島の目ん玉が見えることは無かった。いつも笑ってそれを受け入れて「次からは気をつけます」「気に障ったなら申し訳ございません」と、泣くこともなく笑いながら先輩たちに謝罪の言葉を繰り返すのだ。

 これはこれで重い話のような気もするが、わがバドミントン部ではとにかく下級生は木島をスケープゴートにして、三年生からの不条理な攻撃をかわすしか身を守る術を持っていなかった。ラケットより重いものはやはり持ちたくないものだし、俺もその一人だった。

 そして木島はバドミントンが上手かった。

 練習に不真面目な三年生を差し置いて、一年生ながら団体戦のシングルスメンバーに選ばれたて、地区予選を勝ち抜いていった。
 そしてあと一勝で県大会への出場が決まるという大一番で、木島の試合となり、凡ミスが続いて負けたのだ。
 いつも笑いながら試合を勝ち進む姿に対して、団体メンバーに選ばれなかった三年生たちもそれまでは気にせず応援していたが、負けたのにやっぱり目ん玉の見えない笑顔で帰ってきた姿を見て、三年生たちの感情が爆発したようだった。
「てめえ、負けたくせにへらへら笑ってるんじゃねえよ!」

 それから引退した三年生たちは受験や就職の準備もろくにすることなく、部室に度々訪れては木島を適当にいじめて帰ってゆくのだ。

 
 そんなクソみたいな部活を終えた帰り道、ガットが切れたのでスポーツショップに寄って張り直してもらおうと、いつもと違う公園を通って帰っていると、広場の隅でひとり俊敏なフットワークを繰り返す影を見つけた。木島だった。
 ここで部活帰りにいつも一人で練習していたのだ。
 
 しばらく遠くからそのフットワークを見ていたが、激しい動きにも関わらず、やっぱり木島の目ん玉は見えず、笑った表情を崩さないのは遠目にも分かった。
 けれどその目の横を滴るものがあった。

 それは何なのかわからなかったけれど、フットワークを一時中断し、それをぬぐった木島に向かって俺は歩みを進めていたのであった。
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:蓮狐 お題:正しい汗 制限時間:1時間 読者:160 人 文字数:2667字
女の子同士っていうのは面倒。ちょっとでも、意見が違って、外見が違って、誰か一人でもその子を気に入らないとそれだけで、仲間はずれにされたり、揶揄われたり。昨日仲良 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:夏空蝉丸 お題:儚い悲しみ 制限時間:30分 読者:11 人 文字数:2091字
仕事を終えて帰ってきた。時間は午後7時50分。いつの間にか、夜の帳が下りるのが早くなった。そう思うのだが、それが誤解であることも知っている。夜は、気づかないう 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
開かない扉 ※未完
作者:匿名さん お題:賢い伝承 制限時間:30分 読者:46 人 文字数:2107字
夜の校舎に生徒が侵入することを禁ず、なんてルールは大体どこの学校にも存在している。もちろん僕の学校でもそうだ。 真面目な生徒はもちろんそれに従う。僕は少なくと 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:こっころ お題:死にかけのダンジョン 制限時間:30分 読者:10 人 文字数:619字
父は無口な人間だった。俺とは似ていない。父は失敗しなかった。俺とは真逆だった。俺は父が嫌いではなかった。でも、父が俺を好きなのかは解らなかった。ましてや失踪した 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:知らぬ間の14歳 制限時間:30分 読者:5 人 文字数:2755字
ミズホは美しい少女だった。当然だ。彼女はヴァーチャルな肉体で、つまるところそれは生まれ落ちる苦しみというものを知らない。わたしたちは遺伝子に組み伏せられた獣にす 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
戦場の死神 ※未完
作者:さとりっく お題:消えた電撃 制限時間:30分 読者:6 人 文字数:416字
戦場を満たしていた爆発音が嘘のように霧散し、あたりはただ静寂に包まれていた。「撃ち方やめー!」分隊長がヒステリック気味に叫ぶ。蓄えた髭の先端は、心なしかいつもよ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:昼間の瞳 制限時間:30分 読者:4 人 文字数:966字
呪術師は荒い息をなんとか鎮めようと苦労していた。 深呼吸を繰り返し、咳き込み、そこでようやく足を止めることを自分に許すことにした。 立ち止まると、それまで「歩 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:がんこ お題:俺は作家デビュー 制限時間:30分 読者:6 人 文字数:658字
「さあ、貴様の願いを言え」仕事を辞めて久しぶりに実家へ戻り物置を整理していると、魔法のランプが出てきた。冗談半分でこすってみたら、青い皮膚をしたエディ・マーフィ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:夏空蝉丸 お題:僕の映画館 制限時間:30分 読者:9 人 文字数:2241字
今日も猫の話。 トイレハイになって走り回る日々、ソファーに飛び乗って我が物顔で専有している日々、夕食が魚だとこたつに近寄ってきて泥棒猫になろうとする日々、何故 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:加密列 お題:綺麗な失踪 制限時間:30分 読者:13 人 文字数:791字
バイトが終わり、いつもの虚無感に襲われながら裏路地を行く。 「君は逃げるのかい?」 声が聞こえた、近いようで遠い、高いようで低い、男なのか女なのかもわからない 〈続きを読む〉

ウルス(文芸部アカ)の即興 小説


ユーザーアイコン
作者:ウルス(文芸部アカ) お題:少年のあの人 制限時間:15分 読者:9 人 文字数:872字
いわゆるあの人は窓際族だ。 50代半ばでありながら、これといった肩書きもなく、総務部のさらに一角、壁際には資料の段ボールなどが積まれたような場所にデスクがあり 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ウルス(文芸部アカ) お題:楽観的な螺旋 制限時間:30分 読者:11 人 文字数:1227字
父は俺の通知表を見ながらこう言う。「大丈夫大丈夫、コツコツ頑張ればいつかきっといい評価が得られるさ」 それに母が追従する。「そうよ、成績なんかよりほら、中学生 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ウルス(文芸部アカ) お題:おいでよ女の子 制限時間:30分 読者:12 人 文字数:1090字
「新入生のみなさーん! 青春を謳歌するならやっぱりテニスだよね! 一緒に汗をかこう!」「君と旋律を奏でたいんだ! わがオーケストラ部は初心者もウェルカムだよ! 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ウルス(文芸部アカ) お題:彼が愛した馬鹿 制限時間:30分 読者:13 人 文字数:938字
「えへへっ、見て見てぇ。今回はねラッキーセブンだったよ!」 そう言って晴香は俺の目の前に紙を差し出しひらひらさせてくる。右上に「7」の数字が赤ででかでかと書かれ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ウルス(文芸部アカ) お題:日本式のフォロワー 必須要素:力士 制限時間:1時間 読者:17 人 文字数:1777字 評価:0人
「決まったあ! アララキ選手の見事な一閃! コウロキ選手白刃取りを狙うもわずか及ばず、場外だあ! これで二人の対戦成績は29勝0敗だああああ!」 実況の叫び声が 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ウルス(文芸部アカ) お題:最後の兄弟 制限時間:15分 読者:13 人 文字数:946字
人類が滅びた地球。 いや、正確にはまだ人類は絶滅していない。 奇跡的にハルマゲドンを潜り抜けた兄弟がいた。地球最後の兄弟である。 二人の兄弟は人類が死滅した地 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
許せない顔 ※未完
作者:ウルス(文芸部アカ) お題:許せない顔 制限時間:30分 読者:7 人 文字数:1359字
俺は自分の顔が許せなかった。 毎朝鏡を見ているが、どう見ても悪人顔だ。目は一重で細く吊り上がっており三白眼、その眼光の鋭さだけで青魚を三枚に下ろせる自信がある 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ウルス(文芸部アカ) お題:混沌のホテル 制限時間:30分 読者:13 人 文字数:1437字
新たな取材先を探しているときに、ちょうど一本の電話が入った。「お電話ありがとうございます、心霊出版中川です」 そう言って受話器を取ると、男とも女とも判別がつか 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ウルス(文芸部アカ) お題:右の表情 制限時間:30分 読者:12 人 文字数:1347字
私はケンジ君の右側の表情を知らない。とても好きに思っているひとなのに、まだまだ全然知らない部分がある。彼の右側もその一つだ。 同じクラスのケンジ君は、私の右隣 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ウルス(文芸部アカ) お題:うへへ、瞳 制限時間:15分 読者:12 人 文字数:602字
ハルカはいつも右目に眼帯をしている。 別に目が見えないとか、ものもらいができているとかそういった理由ではない。 眼帯をしている以外はいたって普通の女子高生だ。 〈続きを読む〉