お題:もしかして人体 制限時間:1時間 読者:50 人 文字数:2486字

独りぼっちの架け橋
 レミには他の人とは違った特技を持っていた――特技、というより、人智から飛び出した異能に近いんだけど。
 それは、想いの方向を知ることができるってこと。今誰が、誰に、どういう感情の想いを、どのくらいの強さで考えているのか、頭の上にぴょんと出た矢印から推察することができたんだ。アニメや漫画でよく出てくる人の心を読む能力より確実性がないし使い勝手のいい能力ではなかったけど、それでもレミはこの能力が好きだった。だって、これさえあれば噂を簡単に流せるから。誰がどういう情報を欲しがっているのか、希っているのか手に取るようにわかるから、都市伝説や学校の噂話が大好物なレミが悪用し始めるまでそんなに時間はかからなかった。
 といってもその悪行も長くは続かず、転校を余儀なくされるくらい劣勢に立たされたんだけど、その辺は前も話したので、割愛。

 はてさて。
 さてさて。
 前の学校でこの矢印を悪用すれば天罰が下ることは分かったので、転校先では波風立てず生活を送ることにした。噂話にも聞き耳を立てず、教室で上手く溶け込めるように立ち回って――なんていうとものすごく計算ずくで地位を確立したって思われそうだから訂正すると、まぁなるようになってた。男女混合の友達グループに入って、クラスのみんなとも顔を合わせれば挨拶ができるくらいには仲良くなって、放課後もカラオケとかに行く、そんな生活をなんだかんだ手に入れてた。別に努力はしなくてもいい人に囲まれれば独りぼっちになんて早々ならないんだなぁって思ってたよ。
 独りぼっちといえば、二人くらい気になった人たちがいたな。一人は休み時間中ずっと本を読んでて友達らしき人と一切話してなかった子。文学少女っていうのかな? 手入れされた長い黒髪が後ろの席からはキレイに見えて――うん、それこそ誰も寄せ付けない程キレイだった。授業中先生に当てられた時の声がなんだかドラマで聴くような、雑音のない聞き取りやすくて耳に残る声だったのをよく覚えてる。想いの矢印もどんな時もピンと立ってて一切の迷いがないのもカッコよかった。実際には話したことないからわかんないけど。
 で、もう一人。こっちは同じ友達グループの男子、逢坂当麻くん。こっちは別にクラスで孤立してるとかじゃないんだけど、矢印が独特すぎた。
 理由は分からない。けど、彼の矢印は一度も動いたことがないんだ。
 今までこんなことは一度もなかった。人は誰しも何かに興味を示すし、人を憧れるなり嫌いになるなり感情が動くはずだ。なのに彼は、楽しそうに笑って話しているときも、ボウリングでストライクを取った時も、一貫して頭の上の矢印がどこでもない誰もいない空へと身動き一つせず立っていたのだ。
 ――本当にこの人は人間なの? もしかして人の皮を被ったアンドロイド?
 そう不安になるくらいには不気味だった。何にも興味を持てないなんて、それこそ死んでいるのと変わらないのに。
 それでもわたしは顔には出さずに彼と接し続けた。嘘を吐くのは嫌になったけど、人を不幸にしかできない優しいウソも見分けられないのは、少し寂しいことだ。
 転校してから数か月後。順風満帆な学校生活を送っていたのだけれど、事件が起きた。
 放課後の教室でクラスメイトのイジメ現場を目撃してしまったのだ。
「――――」
 教室と廊下を隔てている窓からこっそりと覗く。男子二人組はコソコソと机の中に何かを入れたり、逆に教科書を取り出して乱雑に投げ捨てたりしている。あの机は――独りぼっちの女子のだ。何か反感を買うようなことしたのかな?
 まあ、でも。
(レミにはどうしようもないことだね、かーえろ)
 そう考えながら踵を返す。何より、男子たちの頭の上で悪意を内包している矢印を間違ってもこちらに向けられたくなかったんだ。あんな思いは――あんな想いは、もうたくさん。
 イジメられる方が悪いんだ、転校前のレミみたいに振舞ったからいけないんだ。
 そう、特に悪びれもせずに歩いていると、廊下の向こう側から生徒が歩いてきた。
「白瀬さん」
「あー、逢坂君」
 と、挨拶を返す。なんで放課後になって一人でここにいるんだろう、もしかして教室に忘れ物したのかなーだったらマズいかもなー……と人ごとのように思っていると、逢坂君にこういわれた。
「丁度良かった。保険に付き合ってよ」
「……ほぇ?」
 なんのことだろ? と聞き返そうとして、レミはようやく気がついた。
「――え、なんで」
 逢坂君の矢印が、力強くレミの方を向いていたのだ。正確には、レミの後ろにある教室へ。
「今機嫌が悪くてさ、何をやらかすか分からないから、教室の外で待っててほしいんだ。随分酷い役を押し付けることにはなるけど、後で借りは返すから」
 そういって、返答を待つことなくレミの横を通り過ぎて教室の中へと入っていった。男子たちが今熱心にイジメている、その中へ。
「――!」
 劈くような音が、始めは人から発せられているとは考えられなかった。けど、何度も叩きつけるように投げかけられているのは怒号だ。今さっきいた逢坂君の怒号。
 これが彼の声だとイコールを付けるのはすごく難しいことだった。だって、今まで逢坂君は大きな声を出したことも、ましてや不機嫌そうにしていたこともなかったのだ。なのに、体育教師のような容赦のない説教声は、間違いなく彼の声だ。
 どのくらいの時間が経っただろう。徐々に男子たちが反発する音が聞こえて、椅子と机がぶつかり合う音が聞こえた時、教室からレミの名前を呼ぶ声が轟いた。
「これを持って職員室へ! 早く!」
 そういって投げ渡されたそれは、彼の携帯。モニターには「REC」が表示されていて、これで教室の中を録っていたんだ――ということがわかった。
 さっきまで中にいた男子三人が雪崩れ込む様に廊下へ出てきたのを確認してからすぐに逃げ出した。録画中ということも忘れて、ひたすらに走る。

 どうして彼がそこまで怒っていたのか、この時のレミは知る由もなかった。
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