お題:コーヒーと大雪 制限時間:1時間 読者:18 人 文字数:1422字

コーヒーを届ける
 12月の初旬。私は窓を全開にして、扇風機の風に当たりながら自家製のコーヒーを一口含んだ後、これまたチョコチップクッキーをかじっているとテレビのニュースがこう伝えた。
「今年は大雪がふっています」
 少し離れたところで調理をしている妻に、笑みを浮かべて大きな声でテレビの内容を伝えると、妻はそうね、よかったわねとそっけない反応を返してくれた。たぶん何度か同じ会話をしている。記憶には無いが反応から察するにそういうことなんだろう。
 時計は午前十一時を回ったくらいだ。この地域では今の時間帯は暑すぎて仕事にならないため大体休憩時間になっており、わが農園も例に漏れず室内で休憩することにしている。従業員たちは畑近くの別室でクーラーや飲み物で涼んでいることであろう。わが国は従業員の労働環境に関して何かとうるさくなってきており、もはや従業員のほうが良い待遇である。
「じゃあ配膳してくるわね」
 そういって妻は従業員に昼食を配りに行った。
「おう、いつもすまないね」
 妻は手をひらひらさせた後、両手に大量のサンドイッチを乗せた金属製のトレーを持って、浮き足立つように従業員の下へ向かった。妻も反応はそっけなかったが大雪は内心うれしいはずだ。
 テレビは未だ隣の国の大雪をレポートしていた。
 私達が住む国は内陸にあり海は無い。国土はウリ状の形をしており、それを大きな川が縦断している。ウリのお尻付近が赤道直下になり、私たちはその少し上に住んでいる。私達の国は陸続きで国境付近は何かと物騒なのだ。軍関係者でもない限り住むことはできないので、実質のところ国の中では私たちが住む地域が最南になる。
 そこからずっと北上し、首都を通過し、最北のウリのヘタに当たる地点からつながるその隣の国が今テレビに映し出されている。もっとも隣の国の南側はまだ温暖な地域だ。そこから隣の国はフラスコのように北に細長く伸びており、その先にある標高の高い山に大雪が降り積もっているという構図になる。
 さてなぜ大雪が嬉しいのか。
 私の国では雨季が7月に来る。今はまだ水に困らないが、やがて雨が減り水が枯渇してくるのだ。飲み水は多少高くても買えばよい。しかしコーヒーとカカオを栽培する農園はそうはいかない。特に5月ごろは特に酷くコーヒー豆やカカオが枯れてしまうこともある。そうなれば農園としては大打撃で飲み水を買うのも難しくなってしまう。
 しかし隣の国に大雪が降れば話は解決する。崩れた雪や解けた水が国の中を縦断し農作物に恵みをもたらし経済も潤う。恵みの雨とはよくいったものだ。
 今年は頭を抱える事も少なそうだなと考えているとトレーを脇に挟み妻が帰ってきた。
「あれ、私たちの卸しているコーヒーじゃない?」
 どうやら雪山の警備隊の特集らしい。小さな小屋が映っている。何重にも服を着込んでいるであろうその隊員の手元にはマグカップに入れたコーヒーが映っていた。その奥のテーブルにはコーヒー豆の入った袋が映っていたのである。それには妻がデザインしたロゴが入っていた。
「おお、あちらにも輸出されているんだな。暖かいコーヒーを飲んで頑張ってほしいね」
 そのまま番組を見終えると準備を始めるにはちょうどいい時間になっていた。
「さて一仕事してくるかな。彼らにコーヒーを届けるために」
「おおげさねぇ」
 妻はそう笑った。
 今日の仕事はいつもより捗りそうな予感がする。 
 
 
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