お題:悲観的なエリート 制限時間:1時間 読者:18 人 文字数:1503字

トレントの苦難
 今月はここでじっと身を潜めていよう。彼はゆっくりと誰にも気づかれないように腰を下ろした。彼の思ったとおりには行かず地面は少し響き、しかし幸運にも何者かがやってくるそぶりは無かった。音に驚きつつも彼はじっと1時間程周囲を警戒したのち、足を鋭く硬化させ、地面に根を伸ばし始めた。
 彼は木の巨人でトレントという種族に当たる。動物でいう胴体に当たる太い幹、ゴツゴツとした木肌、そこから伸びる手には隙間なく少し濃い緑色の葉が生い茂る。大きさは2m50cmを超え始め、二つ前の春から雄花が咲くようになりその時から大人のトレントの仲間入りをした。
 トレントは雌花から落ちた種子から生まれる。芽を出し葉が数枚生え幹と枝がはっきりするようになってから自我が生まれる。ふと気づいた時には風が吹けば折れるような幹とその上部にある枝、そして少しもぞもぞと動かせる根が自分の体だと認識する。多くの種子は同じところにばら撒かれるので、兄弟とも言える存在がいて、周りを見て共に体の動かし方を学ぶ。風は吹いていないのに揺れ動く群生した芽があったらそれはトレントだ。
 それから少し大きくなると虫や動物に兄弟が襲われるようになる。そして命を落とす。そのときに気づくのである。なぜ根がもぞもぞと動くのかを。兄弟が犠牲になり、あちこちを食べられ終わったころにはトレント達は散り散りになる。それ以降ほかのトレントと出会う事はあっても一人で生きていくことになる。理由は簡単で集まって居座るとすぐ土の栄養や水分がなくなってしまうからだ。
 1mにも満たない若いトレント達は脳裏(?)に兄弟が襲われる瞬間が焼きついている。だからとても悲観的でいつ自分がそうなるのだろうかと怯え続けている。その後もトレントには悲観的な出来事が続く。じっとしていたら鳥に葉を食べられ過ぎて狩れてしまう者、動き回っていたらヒトに捕らえられてしまう者、その瞬間や仲間を亡骸を目撃してしまうとさらに悲観が増す。
 彼はゆっくりを根を伸ばし水分と栄養を補給していると土の中で何かにぶつかった。足はセンサーの役割もしており、それが何かすぐにわかった。他のトレントの根である。
 その方向を見ると4mを越す老成したトレントがそこにいた。老トレントは彼のほうを見て枝を軽く振った。
「気にするな。ゆっくりしていくといい。雄花が咲いたのならそろそろ長く根付く必要もあるだろう」
 彼はいつぶりに自分以外のトレントとあったのだろう、そしてそろそろ長く根付くとはどういう意味だろうと考えた。
「ありがとうございます。横取りするような形になってすみません。ところでどの長く根付くとはどういう意味でしょう?」
「他の大人になったトレントには合わなかったようだね。君のその雄花はとても栄養がいるんだ。腹持ちが悪いと思ったことは無いか?」
 そういえば移動距離が短くなったなと彼は感じていた。それを老トレントに伝えた。
「雄花がつくと今までのようにはいかなくなる。移動は短く、栄養はたくさんいるようになる。そしてそれに失敗したり気を取られて動物にやられていく仲間をたくさんみてきた」
 老トレントは大きくため息をついた。
「でも悪いことばかりじゃない。大きく花をつけるときっといいことがある。それが何かというのは無粋なのでやめておこう」
「悪いことばかりではない?あなたほどではないですが僕もいろんなひどいものを見てきてとてもそんな気にはなれません」
「そうだろう。だが生き残るのはそれを直視した悲観的な者だけで、きっとそのあといいことがあるんだ」
 老トレントはそういって静かに目を瞑った。 
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