お題:走る血 制限時間:1時間 読者:63 人 文字数:886字

落下
 どろどろした液体が、ゆっくりと地を流れている。赤黒く、鉄臭い、――血だ。血が、地を流れている。あまりのくだらなさに内心失笑したが、体はぴくりとも反応しなかった。今、僕は横たわっている? よくよく落ち着いて感じてみれば全身が痛い。これは、僕の血だ。
 朦朧としていた意識がはっきりしていくにつれて、段々と音が聞こえてくる。僕を取り囲む人々の声、足音、永遠に鳴り響く鐘のような、空虚に金属質な空耳。大丈夫ですか、大丈夫ですか、と声がする。僕に訊いているのか、とようやく合点がいって、やばいです。と答えようとしたが、うめき声すら出なかった。とても苦しい。どうも、非常にまずい状況になってきたらしい。頭痛もしてきた。
 不意に、こんなはずじゃなかった。という思いが胸を衝いた。僕は何をしていたのだったか。そう、いつも通り、動画を撮影していたのだ。いつも通り、いつも通り。最近は視聴者も徐々に増えてきて、それに比例してアンチも目立ち始めていたけれど、それよりも応援してくれる方が大勢いて、楽しくなってきたところだったんだ。普段、人の行かない高所で撮影をするというパフォーマンスは、最初、自分の満足感のためにやっていたはずなのに、いつの間にか、誰かに見てもらうための撮影に変化していって、僕の楽しみは? 楽しかったけれど。まさかこんなことになるなんて。 思い出した。最後に見た景色と、突然の浮遊感、衝撃、全部覚えている。血だ。血が流れている。暗くなってきた。音も遠ざかっている。ただ、耳鳴りだけが続いている。寒い。お母さん。


 ◆
 高所で自転車に乗るパフォーマンスをしていたユーチューバーの落下死事件は、全国区のニュースで大々的に取り上げられた。コメンテーターは、奇跡的なことに、近くの通行人が巻き添えを食わなくて良かった。と述べ、アナウンサーは、公的に危険行動を規制する対応が求められると締めくくった。
 番組の視聴者は、自業自得だと眉をひそめたり、気の毒に、と同情したりと様々な反応を示したが、みな一様に数分後にはこのニュースを忘れ、それきり二度と思い出すことはなかった。
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