お題:走る血 制限時間:1時間 読者:28 人 文字数:886字

落下
 どろどろした液体が、ゆっくりと地を流れている。赤黒く、鉄臭い、――血だ。血が、地を流れている。あまりのくだらなさに内心失笑したが、体はぴくりとも反応しなかった。今、僕は横たわっている? よくよく落ち着いて感じてみれば全身が痛い。これは、僕の血だ。
 朦朧としていた意識がはっきりしていくにつれて、段々と音が聞こえてくる。僕を取り囲む人々の声、足音、永遠に鳴り響く鐘のような、空虚に金属質な空耳。大丈夫ですか、大丈夫ですか、と声がする。僕に訊いているのか、とようやく合点がいって、やばいです。と答えようとしたが、うめき声すら出なかった。とても苦しい。どうも、非常にまずい状況になってきたらしい。頭痛もしてきた。
 不意に、こんなはずじゃなかった。という思いが胸を衝いた。僕は何をしていたのだったか。そう、いつも通り、動画を撮影していたのだ。いつも通り、いつも通り。最近は視聴者も徐々に増えてきて、それに比例してアンチも目立ち始めていたけれど、それよりも応援してくれる方が大勢いて、楽しくなってきたところだったんだ。普段、人の行かない高所で撮影をするというパフォーマンスは、最初、自分の満足感のためにやっていたはずなのに、いつの間にか、誰かに見てもらうための撮影に変化していって、僕の楽しみは? 楽しかったけれど。まさかこんなことになるなんて。 思い出した。最後に見た景色と、突然の浮遊感、衝撃、全部覚えている。血だ。血が流れている。暗くなってきた。音も遠ざかっている。ただ、耳鳴りだけが続いている。寒い。お母さん。


 ◆
 高所で自転車に乗るパフォーマンスをしていたユーチューバーの落下死事件は、全国区のニュースで大々的に取り上げられた。コメンテーターは、奇跡的なことに、近くの通行人が巻き添えを食わなくて良かった。と述べ、アナウンサーは、公的に危険行動を規制する対応が求められると締めくくった。
 番組の視聴者は、自業自得だと眉をひそめたり、気の毒に、と同情したりと様々な反応を示したが、みな一様に数分後にはこのニュースを忘れ、それきり二度と思い出すことはなかった。
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
※未完
作者:匿名さん お題:走る血 制限時間:30分 読者:194 人 文字数:1025字
絶え間なく鳴る心臓。血が体中を巡っている。額からは汗が噴き出ているせいで、喉は乾く。酸素を欲している。水を欲している。いくぞ、やるぞ。そう思っても体は熱を持っ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
文鳥先生! ※未完
作者:匿名さん お題:鳥の小説訓練 制限時間:1時間 読者:3 人 文字数:1706字
事実は小説よりも奇なり、とはよく言うが。これは一体全体どうしたことだろう。 「うげえ、つまんなっ。逆にどうしてこんなものが書けるんだ!?」 帰宅した私はかばん 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:七淵 お題:鳥の小説訓練 制限時間:1時間 読者:9 人 文字数:639字
…空は蒼く、風は強く、我々は海へと征こうーああ、人間の本は面白いや少しずつ、言葉をあやふやだけれど覚えたような気がして、わかったような気がして。なんとなく、わか 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:アイネクラリネ お題:愛と欲望の地下室 制限時間:1時間 読者:9 人 文字数:1570字
···陰陽師、それは人をたぶらかし、食らう邪悪なる悪鬼羅刹を退治する者、そして、俺の先祖はそんな陰陽師だったらしい、俺の先祖の陰陽師は、昔、都で悪さをしていた九 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:なんかやる お題:静かな年賀状 制限時間:1時間 読者:6 人 文字数:1059字
ブロロロンというバイクの音が響く。続いてブレーキ音。次に硬い何かが地面に接触した。玄関にあるポストの入り口が軋んで金属が悲鳴を上げる。その後、ドサッと落ちる振 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:なんかやる お題:最強のテロリスト 制限時間:1時間 読者:5 人 文字数:1920字
5月というのに私達に容赦なく夏の日差しが注がれている。その中で捜索活動が続いていた。山に近い住宅街。山に行っていたら最悪だが、包囲できればこちらのものとも言え 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:なんかやる お題:春の同情 制限時間:1時間 読者:6 人 文字数:948字
電車を降りて駅の建屋から出るともう町は闇に飲まれていた。月の光はない。自転車小屋までは小さな街頭が便りだ。タイヤ横の自転車のライトのスイッチを下ろしてペダルを 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:那智 お題:小説家たちの爆発 制限時間:1時間 読者:18 人 文字数:1099字
「申し訳ありません」か細く震えた謝罪に、イルヌは手元の本からゆっくりと視線を上げた。目の前にはドレスの檻と、色とりどりのそれに埋もれるようにして囲われた憐れなピ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:星蘭 お題:冷静と情熱の間にあるのは風 制限時間:1時間 読者:27 人 文字数:4693字
相変わらず、こういう場所には慣れない。そう思いながら、スファルは待ち合わせ場所であるバーの前で煙草に火をつける。ふぅ、と紫煙を吐き出しながら、路地に視線を投げた 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:残念な女の子 制限時間:1時間 読者:6 人 文字数:1569字
深夜、家族が寝静まった頃を見計らって、少女は自室で作業を開始した。 机に向かい、ノートを広げ、ペンを走らせる。 顔は、たぶん、十人並み。 胸、薄い。 腹、ぷよ 〈続きを読む〉

けたいしの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:けたいし お題:僕の挫折 制限時間:15分 読者:16 人 文字数:713字
面接で「これまで挫折した体験はありますか?」と聞かれても、「はい、あります」と答えてはいけません。と教えてくれたのは、生徒指導部の堀田先生だった。正解は「つら 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:けたいし お題:静かな年賀状 制限時間:1時間 読者:13 人 文字数:1143字
マンション宛に、白紙の年賀状が届いた。表面も裏面も完全に真っ白、新品の年賀はがきだ。一つ妙なことと言えば、これも差出人・宛名ともに書かれていない白封筒に入れら 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:けたいし お題:戦争と喜び 制限時間:1時間 読者:14 人 文字数:3753字
◆ 私立供木学園高等学校には、開校以来40年間守られてきた伝統的校則が存在する。曰く、『全ての学生は、必ず部活動に所属すること』。「――でも、伝統だからと言って 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:けたいし お題:恋のエリート 制限時間:15分 読者:13 人 文字数:683字
まさかこの日陰者の俺に、校内でビッチと名高い佐藤先輩と二人きりになる機会が来ようなどとは思ってもいなかった。緊張しすぎてめまいがする。横目で様子を伺うと、先輩 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:けたいし お題:走る血 制限時間:1時間 読者:28 人 文字数:886字
どろどろした液体が、ゆっくりと地を流れている。赤黒く、鉄臭い、――血だ。血が、地を流れている。あまりのくだらなさに内心失笑したが、体はぴくりとも反応しなかった 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:けたいし お題:青い星 制限時間:1時間 読者:33 人 文字数:2028字
放課後、桜井が近づいてきて唐突に『走れメロス』を読んで来い、と言ってきた。返事も待たずに「じゃあ、部活があるから」と去ってしまったので、理由については見当がつ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:けたいし お題:ぐちゃぐちゃの真実 必須要素:子供 制限時間:1時間 読者:58 人 文字数:1549字 評価:2人
仕事帰りに路地裏をうろついていたら、路上で占いをやっていた。ぶすっとした表情の中年男性が、机に薄地の白い布を垂らしただけの簡素なセットを前に座っている。机の上 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:けたいし お題:興奮したネット 必須要素:ポルチーニ茸 制限時間:1時間 読者:49 人 文字数:2350字 評価:0人
彼氏が魔法使いであるということを聞いたのが、もう半年前になる。この魔法使いとは、30歳を過ぎても童貞の男性のことではなく、科学とは全く異なる法則を利用した現象 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:けたいし お題:清いババァ 制限時間:1時間 読者:38 人 文字数:2736字
放課後になって、今日はまっすぐ帰ろうか、はたまたどこか寄り道しようか、と考えながら荷物を片付けていたら、西山が近寄ってきた。「今帰り?」「そう」「なら暇だろ。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:けたいし お題:そ、それは・・・ガール 制限時間:30分 読者:41 人 文字数:1597字
目が覚めると、12畳ほどの狭い部屋にいた。長い間寝かされていたのか、体がひどく強張っている。部屋は一面白で統一されており、照明の反射が目に痛かった。 部屋の中 〈続きを読む〉