お題:鋭い狙撃手 制限時間:15分 読者:19 人 文字数:944字

見つめていたい
思わず、ぼくは、彼女の後を追った。彼女は意外なほどの早足でどんどん歩いて行く。その背中をじっと見つめる。白いTシャツ。何も模様のない真っ白い布が彼女の動きに合わせて絶え間なく波立ちその上でポニーテイルにくくった髪が別のいきもののように揺れている。ぴったりとしたブルーのジーンズに包まれた二本の脚がしなやかに動いている。力が入って背中との距離がどんどん縮まってくるのでぼくは歩調を少し緩める。追いつこうとしているわけではないのだ。ただ、彼女に気付かれることなしに、じっと彼女を見つめていられたらそれでいいのだ。本当は背中などではなく、顔を見たいのだが、そうすれば彼女に気付かれてしまう。彼女がぼくのことなんか知らないし、知らない男にじっと見られても不快なだけだろう。彼女は歩道をまっすぐに歩いて、交差点を渡り、商店街を抜けた。どこに行くのか知らないし、別にどこだっていい。できればこのまま歩き続けて欲しい。そうすれば、ぼくはずっと彼女を見つめ続けることができるのだ。信号が赤になって、彼女が足を止めた。信号を渡れば駅だ。きっとあそこから電車に乗るのだろう。この時間ならきっと混んでいるに違いない。そうすれば、もう、誰にもはばからずに堂々と彼女を見つめ続けることはできなくなる。ぼくは決心して、すぐ脇のクリーニング屋と酒屋の間の小さな隙間に身を潜めた。そして、ポケットから取り出したものを彼女の方に向けた。信号が青に変わる。彼女が歩きだす瞬間に彼女の背中に向けてそれを発射した。真っ白だった彼女の背にぽつんと小さく赤い点が浮かび、円になり、炎が広がるようにその円はみるみるうちに大きくなり、彼女のからだが空気を抜かれたように崩れ落ちる。信号を渡りかけた周囲の人がけげんな視線を向ける。何人かは立ち止まってのぞきこんでいる。彼女は、右頬を下に向け、まるでベッドで眠って居るかのような体勢で横たわっている。ぼくはゆっくりと彼女に近づき、かがみこみ、彼女の顔を覗き込んだ。そして、彼女の白い顔を間近でじっくりと見つめた。周囲がざわつき始めた。救急車とか警察とかいう声が聞こえる。ぼくは幸せだった。救急車にしろ警察にしろ、それが車での数分間はこうしてじっくりと彼女の顔を見つめていることができるのだ。
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