お題:小さな強奪 制限時間:30分 読者:6 人 文字数:1687字

君との時間の作り方
 油断していた。まさか、こんな目に遭うとは。
「くっ、何が何でも取り返さないと……!」
 犯人は分かっている。最近やたらと突っかかってくるあのクラスメイトだ。
 問題は、どこに行ったか分からない事と、その理由。
 片っ端から居そうな場所を開けていった私は、最後に辿り着いた図書室で彼女を見つけた。
「……うーん、十五分か。ちょっと遅いかな」
 スマホの時計を見ながら言う彼女に、私はつかつかと近寄る。
「いいから返せ!! 私のノート!!」
 彼女が机に広げているのは私のノートだ。それも、授業用ではない。趣味の絵をひたすら描きまくっている、シークレットなやつ。
「放課後に一人でこそこそ描いてるから、気になってたんだよね。まあまあ上手いじゃん?」
 にやにやと笑いながらノートを堂々広げているのを、私は手を伸ばして奪い返そうとする。
 しかし彼女はそれを阻みながらページをめくっていく。ちょっと待って、本当にそれ以上見られたらまずいんだけど。
「勝手に持ってって何を! とっとと返せ!」
「ほら、図書館ではお静かに」
「誰のせいだよ! ていうかそれ以上見るな! 見たら殺す!」
「わお物騒」
 何とかノートの端っこを掴んだ私の手を、だけど彼女は掴み返し――禁断のページに辿り着いてしまった。

「――――」

 一瞬固まる彼女からノートを取り返した私は、ぜいぜいと息を吐きながらしっかりと抱える。
「……ねえ」
「何。ていうかバラしたら許さないから」
「いや、ばらさないから、代わりに一つ、言う事聞いてよ」
「え」
 何で脅されなければならないのか、と訝しむ私に、彼女は自分の鞄からノートを出した。
「これ見れば分かるから」
 ノートを小脇に抱えたまま、私は渡されたそれを開く。文字がびっしりだが、それは当然、勉強用の中身ではなく。
「…………ちょ、ちょっと、あんた学校になんてものを」
 綴られた内容は少々、いやかなり過激な代物だ。まだ途中らしいが、こんな内容を他の誰かに見られたら、社会的に死ぬと思う。
「取引といこうよ。端的に言うなら、絵を描いて」
「絵って、こ、これの!? いやいやいや、無理がある!!」
 見られたら困る絵を描いたからと言って、必ずしもそれが描きたいとかではない。ただ、少しだけ興味があった。それだけだ。
「前から気になってたんだよねー。絵を描いてるのは知ってたし、ちょっとつつけばボロ出すかなって思ったけど、案外ガード硬いし」
「それで私の絵が気に入らなかったら、どうするつもりだったんだよ!」
「どうもしないよ? そこでおしまい。まあそれとは別に、お互い秘密を知った者同士、仲良くしようや」
「最後の台詞だけあくどい!! そして私はまだやるとも言ってない!」
 声が大きい、とたしなめられ、私は周囲を見渡す。人が居ないのがせめてもの救いだ。というか図書委員も居ないんだけど、サボるのはどうかとさすがに思う。
 さておき、彼女はノートを自分の手に戻すと、スマホを見せた。
「何枚か収めたんだけど、それでも駄目?」
「それを脅迫と人は言う」
「お願いだって。お、ね、が、い」
「……それよりその小説って、どうするつもりなの?」
「書いて楽しいから書いてる。それだけ。でも挿絵が見たい。クラスメイトの中で絵が描けそうで、かつ声を掛けやすそうだったから、君に決めた」
 つまりただの趣味に付き合え、と。……どうしようか。絵を見られて、上手いと言われて、ついでに描いてくれなんて、まあ普通に揺らぐ。
 ただ、内容がアレなので、私は一つ、条件を用意した。
「分かった。鋭意努力はしよう。ただし、描くシーンのモデルはあんたね」
「…………まじかー。そうきたかー」
「嫌なら別に」
「え、いいよ」
「いいんかい!」
 今の葛藤っぽい雰囲気は何だったんだ。ともあれ、謎の取引が成立した私達は、とりあえず親睦を深める為に、コーヒーショップに向かう事になった。

 ――その後、何故かその本が薄い本と呼ばれる類のものになり、一部の層に大受けしたという。


おしまい
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