お題:かゆくなる夜 制限時間:15分 読者:36 人 文字数:652字

早く新しいやつ買ったほういいよ
「耳障り」という言葉を表すのに、これほど適した音はないんじゃないかと夏がくるたびに思う。

引っ越した日からこの部屋に置いてあったクーラは黄ばんでいて、音も匂いも風量も気に入らない。おまけに10年以上前のモデルだから、一旦起動すると電気のメーターがぐるぐるとせわしなくまわり続ける。
私がトンボだったらきっと目を回して地面に転がっていただろう。

そういうわけで、寝苦しい夜は網戸と蚊取り線香で凌ぐことにしているのだ。
とはいえ、蚊取り線香のヤニとニオイも強烈なもので、だいたい1年のうちの2ヶ月ほどはこうやって何度も寝返りをうちながら悪夢を嗜むハメになる。

「あたらしいクーラーを買ったらいいのに」

たしかにそう。正論だ。
この黄ばんだ異臭拡散機もきっと私の前の住人か、その前の住人が購入し、取り付けたものだろう。
私だって当面は引っ越しの予定もない。わかっている。

今年こそ新調しようと頭の隅で思いながらも、なまじなんだかんだとしのげているせいで、家電量販店に足を運ぶたび暑さに耐えてきた過去の私が「もったいない」と叫んでくるのだ。

「今まで堪えてきたのはなんだったのか」と。

なんだったかもなにも、これから快適な生活を送ればいい。わかっている。わかってはいる。本当だ。
今日だってその葛藤をやってきた帰りなのだ。

家に帰り、すべての窓を開け放つ。
扇風機を回して蚊取り線香をセットし、眠りにつく。

布団に入ってしばらくすると、親の声より聞いたモスキート音がやってくる。
ああ、かゆい。
作者にコメント

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