お題:つらい神話 制限時間:15分 読者:46 人 文字数:964字

交代
 舞がはじまれば外に出ないとならない。それはあらかじめ決められた展開で、逆らうことは許されなかった。楽しい引きこもり生活もこれで終いだった。好きな時間に食べて寝て、わずらわしい人間関係から離れ、ひたすら自分とだけ向き合い続ける。なんて気楽、心洗われるひとときだと満喫していたのに、外ではもう舞がはじまっている。
 岩戸を開けて、すこし覗いた。どうやら楽しいお祭り騒ぎに心惹かれているようだ、と外では浮かれた気配がする。作戦はうまくいっているぞ、もっと楽しそうに舞を続けるのだ。
 また頑なに戸を閉ざし、ため息をつく。
 すこしもうまくいってなどない。お祭りなんて騒がしいもの、元から好きではないし、神話の展開に従うという取り決めがなければ、一生だってここに閉じこもっていたい。外に出るのは取り決めがあるからで、そうでなければ、あの者たちに、彼女を戸を開けさせる力などなかった。
「めんどうだな」
 ひとり真っ暗闇に向かってぼやいた。彼女の言葉は光をまとい、闇を照らして岩の壁に跳ね返って消える。外ではこの光を求めているのだろう。彼女が引きこもって以来、空を照らすものはすっかりなくなってしまったから。
「べつに神話通りにしなくたっていいじゃんか」
 外でますます盛り上がるお祭り騒ぎにうんざりして、ぐちぐち文句を言いながら、岩のへこみに指を突っ込んで砂を落とす。口から発した愚痴は砂に宿って、星屑のようにきらめいた。
「人前に出るの、つらいよ。誰か代わってくんないかな」
 彼女はしゃがみこんで、今度は地面の砂をかき集めた。両手におさまるぶんの砂を固めると、彼女のちょっとした願望が光となって落ち、固まりに宿った。
「了解した!」
 輝くばかりの言葉を発し、固まりはよちよちと歩きはじめ、岩戸の外に出ていった。彼女がそれを見送ったあと、外から大きな歓声に人形が迎えられるのが聞こえてきた。
「ほらやっぱり、わたしじゃなくてもよかったんだ」
 人形はりっぱに彼女のお役目を果たし、世界は光に照らされて、闇に沈むのは岩戸のなかだけとなった。彼女は好きな時間に食べて寝て、外のことなどすっかり忘れて毎日を過ごした。ときどき気になることはあっても、代わりの人形が彼女より上手に役目を果たしていることを思い、すぐに忘れようとするのだった。
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