お題:打算的なぬくもり 必須要素:にゃんまげ 制限時間:30分 読者:46 人 文字数:1439字

打算的な温もり
「お前、ゆるキャラとか、あれ全部中身おっさんだからな」
 クラスメイトのたかしくんが、バスの中でパンフレットを静かに見てはしゃいでいる僕に、そう悪意もなく声をかける。
「夢を壊さないでもらえないかい? 僕だってテーマパークに行くときくらい、現実から目をそらしたいんだ」
 小学生にして、月から日曜日まで習い事のオンパレード。昨今ニュースでブラック企業での過労死や自殺、ストライキが騒がれているのだ。僕をその未来の社畜の仲間にならないために、今のうちにリフレッシュするのが合理的な考えというもの。
「だからおっさんでもいい。僕はテーマパークでにゃんまげちゃんに癒されたいんだ」
 たかしくんは僕の夢を壊したくて仕方がなかったみたいだけど、僕は夢の正体がおっさんでも、その瞬間だけは夢をみたいものだ。だってそうだろう? 仮面ライダーの人達は、実際は役者さんで悪者をやっつけてはいない。でも、あのストーリーには夢を抱く権利は消費者側にはあるはずだ。
「また小難しいこと考えやがって。大人のまねもほどほどにしろよ」
「大人のマネじゃないね。大人になることを前提に子供時代を送る方が理にかなっているんじゃないかってことだよ」
「けっ、おっさんに抱き着いてこいよ」


 私がこのバイトを始めてから、もうだいぶ経とうとしている。あらゆる人達が私にこう言う。
「どうせおっさんだろ!」
 そうだ。私は40中ごろのおっさんだ。会社をリストラされ、行く当てがなく今に至る。このにゃんまげというキャラの着ぐるみを着て、人々に愛想を振り舞いている。おっさんといわれることに、一抹の辛さないかといわれれば、嘘になる。なぜなら、自分の仕事が認められていないような気になるからだ。
 そして今日も、小学生の遠足グループがやってきた。私に「おっさんー、おっさんー」と持て囃す子供たち。まあ、こんなことはもう慣れている。自分を殺し、愛想を振りまく。あらかた子供たちも満足し、人の気配が減ったところで、一人の小学生が私の方を見ていた。きちんと七三で分けられた前髪から覗いている瞳は、すべてを見通しているような知的さを感じさせた。
 その子もどうせ私のことをおっさんと思っているだろうな。そう思いながら、彼の方へ歩みを進めた。彼は何も言わずに私を抱きしめた。
「暖かいですね。やはり子供の夢を壊さないために、あなたも全力なのはわかります。でも、そんなつらそうに働くのはつらくないですか?」
 淡々と、小学生とは思えない落ち着きを持った声が耳に入ってきた。
「仕事上、あなたには何も言えないのはわかります。しかし、ここであなたにやさしい言葉をかけることによって、もっとサービスをしてもらえるのではないかという打算的な考えがないといえば、嘘になります。僕はずるい人間かもしれません。しかし、ここで僕という存在から気遣いを受けることで、あなたも癒される。いうなれば、Winwinではないでしょうか」
 子どもながらにいろいろ考えている少年の発言に、思わず体が固まる。
「あなたには、もっと働いていてほしいです。小さいころから、あなたの姿を見ていました。あなたは僕の癒しです。だから、むりのないような働き方はないでしょうか」

 しばらくして、ニュースでにゃんまげが仕事で怠けるシーンを堂々とテーマパーク内で晒すようになったと報道された。
 これで、しばらくにゃんまげの温もりはあの場所にとどまってくれそうだ。そう思った。
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