お題:とんでもないぬるぬる 制限時間:15分 読者:44 人 文字数:1058字

ぬるぬるの食卓
キッチンはぱっと見は普通らしい。友人によってはおしゃれなキッチンだというやつもいる。が、ぼくにとっては普通どころか刑事ドラマでよく出てくる刑事が犯人を尋問する部屋のように灰色に沈んで絶え間なく明るい光が差し込んでくる窓には見えない鉄格子がはまっている。
父はいつも通りぼくが目を覚ます前に出て行ってしまって、姉はここ数日姿を見ていない。男か友人のところを泊まり歩いているのだろう。
テーブルにはいつもどおりトーストとミルクと卵焼きとサラダが並べられている。母は背を向けて流しで何かを洗っている。ぼくは黙って腰かけて、ミルクを飲む。ぬるいが何も言わない。母が黙って冷蔵庫から小分けのマーガリンとジャムを出してぼくの前に置く。ぼくはジャムが嫌いだからつけない。何度言っても母はわざとのようにぼくの前にジャムを置く。もう面倒なので何も言わない。そして、開封されずに残ったジャムを見て、母は必ず「なんでジャムつけないの、おいしいのに」と言う。
マーガリンのふたを開封して、ナイフの先ですくってトーストになすりつけようとするが、変だ。ぜんぜんすくえない。ナイフの先が油をなすりつけたようにぬるぬるになるだけだ。マーガリンのケースの中を見てみると、そこには固体はなく何かどろどろの黄色い気持ちの悪い液体だった。腐って溶けているのだ。ぼくは、母を見た。母は黙って自分のトーストにマーガリンをなすりつけている。そっとのぞき見ると、目の覚めるようにいきいきとした黄金のかたまりがトーストの上で溶けている。ぼくは、黙ってナイフを置いて、何もついていないトーストを齧る。
「なんでマーガリン、つけないの」
 母が、サラダをフォークでつつきながら言う。
「腐ってる」
 ぼくは迷った末に言った。
「何バカなこと言ってるの。人聞きの悪い。腐ってるものを食べさせるわけないでしょ」
 母の手がにゅっと伸びてきてぼくのマーガリンをつかんだ。
「腐ってないでしょ。ちょっと変質してるだけ。食べられるわよ、つけなさい。もったいない」
 ぼくの目の前にマーガリンが転がって戻って来た。ぼくは母を見た。すごい顔でぼくをにらんでいた。ここで逆らえば、また、弁当が梅干しだけになったり、何を言っても返事をしてもらえなくなるのだ。どうせ今夜も父は深夜まで帰って来ないし姉もいないだろう。だからぼくは母と二人なのだ。
しかたなくぼくはぬるぬるのマーガリンをつけてトーストを齧った。テーブルも流しも窓もサラダもぼくの目の中ですべてぬるぬるに滲んで溶けて腐っていた。
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