お題:初めての四肢切断 制限時間:15分 読者:26 人 文字数:980字

ダルマごろごろ
 あるべきものが無い。
 なんとなくこの感覚には覚えがあった。そうだ、腕の血が圧迫とかで止まった状態で朝起きたとき、その腕が冷たくなってたときと同じなんだ。動かそうと思っても動かなくって、動くほうの腕で触ってみてもまるで感触を感じられなくて、その腕を無理やり頬に触れさせてみると、まるで別人の腕を擦り付けている感覚。
 それが今は四肢全部か。いやはや無くなったものだな。

「誰も腕を動かす方法を教えてくれはしない」
 神経接続型の義肢が開発されて真っ先に膨れ上がった問題だった。
「腕よ動け」
 なんて命令は当然脳が出しているのだけれど、結局のところその電気信号を出す方法が、分からないものには分からないのだ。
 そこで考案されたのがこの、
『四肢切断体験VR』
 ということだ。
 なんでも僕の電気信号云々を読み取って、腕をこう動かしたいときにはこんな信号が、というのを学習記録するためのものだという。それだけなら別に四肢切断を疑似体験する必要は無くないか、僕はそう尋ねてみた。
「その方がリアリティあるでしょ」
 ごもっともだと思った。
 実際僕は四肢が見事にあるし、大きな怪我で動かなくなってしまったわけでもない。小学校の頃に盲目の人がどんな世界で暮らしているか、と体験する授業があったなぁなんてぼんやり思い出す程度の抵抗感しかなかった。
 
 ただどうだろう。どうにもこうして自分にあるべきものが無く、動かすものも無い状況というのは、面白い。あくまで興味深いという意味で。
「うへ」
 ぴょこぴょこと動く、肩の先の残った部分が妙に気持ち悪かった。
「しかしこれ、いつまでやってればいいんだろう?」



「簡単な時代になりましたねぇ」
 人体の四肢解体現場を顔色一つ変えずに見ながら青年は言う。
 ヘッドマウントディスプレイを装着し、麻酔で痛みも感じない被解体者は、
「おぉ」
 とか
「わぁ」
 なんて暢気に言っているのだから、グロテスクだ、なんて気も削げるものらしい。
「今時ダルマが再燃するとは思ってなかったよ」
 空前のダルマブーム。男女問わずにその道の人間はダルマがお好みらしい。中には片目を残しておいて、組織間の選挙に勝った際には、無くなった眼をはめ込むのだとか。
「どうだ、お前も初めての四肢切断とか」
「最初で最後じゃないですか」
 
作者にコメント

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