お題:調和した洞窟 制限時間:15分 読者:34 人 文字数:860字

頭ガムシロ
 僕はある日、ちくわのなかを見てしまったことがある。

 空っぽだった。磯臭い空気と共に向こうで動く兄弟が妙にちっぽけに見えて。

 海原というよりは、ため池のように虚しい冷たさがあったことを、大人になった今でも覚えている。

「えー、今回はお集まりいただき誠にありがたく……」

 やっと工場長の話が始まった。

「この工場はまあ、ご存知の通りお菓子工場となっているわけなのですが、今回皆さんにご覧いただくのはバームクーヘン。バームクーヘンの製造過程となっています」

 私以外の参加者からどよめきが起こったような気がした。ある場所では顔を見合わせ、またパイプ椅子を小さく鳴らし。……一人、机の上でなにか書き込んでいる奴もいた。趣味で記者でもしているのだろうか。

 しかしながら、そのどよめきに歓喜はさほど感じられなかった。手堅く、まあ、つまらなくはない。そんな安心からくるものだろう。


「えーでは、さっそく見学へ! ……と行きたいところなのですが、少しその前に、皆さんから質問がありましたらお聞きしたいと思います」

 どう捉えたのだろうか。期限の良い声でざわめきを切った工場長は私たち計十数名を見渡す。

 小部屋を一周。私たちの困惑が薄れるよりも早く暇を作った彼は、すこしおびえた後に、申し訳なさそうに私の方に目を向けた。

「なにか、ありませんか」

 私と目が合った。というか合わせてきた。

「……ええと、見学後も質問は?」

「もちろんご用意しています。……なにか、実際に見てみる前に”ここってどうなのかなー”とか、そういうかんじの」

 ____それが知りたいから見に行くのではないのか。


「…………バームクーヘンって、穴、ありますよね」

「ええ、ありますね」

「………………それって、どうやって作ってるのかなーっ、て」

 周囲から失笑の声がする。工場長も苦笑いで、「そんなことも知らないのか」という顔で見てくる。


 もちろん、俺だって知っている。

 あの深淵は、作られるものだ。
作者にコメント

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