お題:僕と検察官 必須要素: 制限時間:1時間 読者:37 人 文字数:3049字 評価:0人

新ルール
「検察官の仕事はね、犯罪を犯した人を起訴することにあるんだ。起訴することで、犯罪を犯した人を裁判にかけられるだろう? そうして起訴事実が認められれば、罪を償わせるのさ」
 検察官のお兄さんは、そうやって僕に仕事のことを説明してくれた。
「じゃあ、裁判では何もしないの?」
「そんなことないよ。裁判で起訴事実を被疑者――犯罪を犯したかもしれない人だね――に対する起訴事実が本当かどうか検証するのも大事な仕事さ」
 でもね、とお兄さんは続ける。
「弁護士というゴミ虫、いや低俗な――うーん、ちょっと違うかなあ、そうだなあ、えーと、クソ野郎どもはね」
 お兄さんは突然口汚く弁護士を罵った。
「時に心情に訴えるような真似をしてくるんだよ。狡猾――ずるいという意味だけど、そういう連中だからね、弁護士というのは」
 心情で量刑が決まってはいけない、とお兄さんは断じた。
「何をしたか、が大事だとお兄さんは思うんだよ。何故したのかというところに焦点を置いて、その理由によって情状酌量がなされるのは、お兄さんの好む所じゃないんだよ」
 ええー、と僕は驚いた。
「じゃ、じゃあ、親の仇を殺したりしたら?」
「現代では敵討ちは情状酌量の余地はないよ」
「逆に親を殺しても?」
「尊属殺なんていうナンセンスなものも、とっくになくなったよ」
 そっかー、と僕はうなずく。
「でも、やむにやまれぬ状況で犯罪を犯してしまったら?」
 殺されそうとか、と僕が言うと、お兄さんは笑った。
「さすがのお兄さんでも、正当防衛だけは別だよ。あまりに心情を盾にする弁護士なら殺してもいい、っていう法律を作りたいぐらいさ。これは法曹という偉大な職種への正当防衛のはずだからね」
 お兄さんは過激なことを言わないと死んでしまう病気なのかもしれないな、と僕は思った。
「じゃあ、貧乏で貧乏で、しょうがなく盗みを働いてしまったら?」
「そういう場合は盗みじゃなくて、普通に働いた方がいいね。理由にならないよ」
「なら、車に乗った人に何か大事なものを盗られて、それを追いかけるために近くにあった車を拝借するのは?」
 それは難しい問題だね、とお兄さんは首をかしげる。
「そうだなあ……、でも鍛えていたら車に走って追いつくくらい造作もないよね?」
 えええー、と僕はまた驚いた。
「鍛えていたら、車に走って追いつけるの!?」
「そうだよ。お兄さんも追いつけるよ、エリートだからね」
 検察官じゃなくオリンピックの選手になればよかったのに、と僕はふと思った。
「その努力を怠ったということで、普通に窃盗の容疑だね」
「じゃあ大事なものを盗った方は?」
「そっちも窃盗だね」
 何だか僕は釈然としなかった。殴られても殴り返すな、とそういう風に言われているみたいだったから。僕は、殴られたら殴り返さずにはいられない。きっとお兄さんもそういう人だと思っていたのに……。
「じゃあ、やり返しちゃいけないってことなの?」
「そんなことはないよ」
 例えば刑務所でファイトすればいいんだよ、とお兄さんは素敵な提案をした。
「そっかあ、刑務所でファイトするのは定番だもんね」
「そうだろう? 犯罪もののドラマならよくあるパターンだよね」
 うんうん、とお兄さんは幾度もうなずいた。きっと頭の中ではプロレスラーみたいな囚人の長が、新入りのイケメンとボクシング対決をしているのだろう。
「でもね、もっといい方法があると思うんだ」
「それは何?」
 お兄さんは嬉しそうに言い放った。
「それはね、全部決着をつけてから自首するんだ」
「どういう意味?」
 いいかい、とお兄さんは話を整理し始めた。
「君の挙げた例では、まず大事なものを盗られるんだよね?」
「そうだよ。婚約者とか、現金三千万とかそういうのだよ」
 婚約者と三千万は等価か、とお兄さんは若干引いたようだった。だけど、僕は三千万ドルのつもりだったから、適正な値段だと思っていた。
「それでそれを追いかけるんだよね?」
「うん。お兄さんみたいに鍛えたエリートではないから、その辺の車かバイクを盗むんだよ」
 うんうんうん、とお兄さんはまた何度も首を縦に振った。
「じゃあその追いかけてる人、甲としようか。その甲が盗った相手乙に追いつくじゃない?」
 その時、追いかけている甲は何をするだろうか。僕は当然「婚約者とか三千万めいたものを取り戻すよ」と答えた。
「そうだね。そして、甲は乙に何をする?」
 ああー、と僕はようやくわかった。
「ここで甲が乙を殺すんだね!」
「そうだよ。しょうもない男子中学生にもわかったみたいだね!」
 うん、と僕は嬉しそうにうなずいてしまった。お兄さんの笑顔につられてしまったんだ。
「じゃあ、それで甲が自首したらいいんだね?」
「いや、違うよ」
 やっぱりしょうもない男子中学生だね、とお兄さんは肩をすくめた。
「車ないしバイクを甲に盗まれた丙が出てこなきゃ」
「丙!?」
 後付けみたいな新登場に僕は驚いた。でも、よく考えたら丙は確実に存在するはずなのだ。
「じゃ、じゃあもしかして……」
「そうさ。甲と丙が対決して、生き残った方が自首するんだよ」
 さすがは検察官のお兄さんだ、と僕は感心した。丙が勝つだけでなく、甲が勝つパターンまで頭にあるなんて。
「じゃあさ、乙が甲を逆に殺した場合、丙と乙の戦いになるの?」
「そうだね。乙はそもそも他人の婚約者ないし三千万めいたものを盗む倫理観のなさだから、丙が甲を恨んでいることを理解できないだろうからね」
 ともかく、とお兄さんは話をまとめた。
「こうして関わっている人間が一人になってから、最後に生き残ったものが自首してくれたら、もう簡単だよね? そう、自首してきた人間を死刑にするだけでいいんだから。そうしたらベンジョムシ、じゃなくて弁護士の心情的な部分に触れるクソみたいな陳述を聞かなくて済むし」
 お兄さんの考えた新たな司法システムは、とても画期的だった。
 僕はそういう未来が早く来たらなあ、と夢想する。
「おっと、夢想するだけではダメだよ。未来は、君の手で作り出さなきゃね」
 うん、と僕は強くうなずいたのだった。



 続報です。
 今朝、U県M市の××中学の校門に暴走したトラックが突っ込み、児童と教員併せて30名以上が死傷した事件について、U県警は同中学に通う少年を無免許運転と窃盗の疑いで逮捕した、との情報が入ってきました。
 この少年は、校門に突っ込んできたトラックの運転席に乗っているのが見つかり、暴走は少年によるものだという線で県警は捜査を進めているようです。
 また、トラックの助手席には同トラックの運転手の男性の遺体が載せられており、少年が男性の殺害をもほのめかす供述をしているようです。
 少年は取り調べに対し、「いじめられていたので、やり返そうと思った」「全部対決して生き残ったものが自首するルールの最初の例になりたい」「検察官のお兄さんと相談して決めた」「弁護士はベンジョムシ」などと話しているようで、県警は「精神鑑定も視野に事実関係を調査する」とのコメントを発表、慎重に捜査を続けていく構えを見せています。
 ……さてスポーツいきましょう、森アナウンサー!
「はい、森です! 驚くべき記録が生まれました! アメリカで行われている世界陸上で、何と自動車と同等のスピードで走る選手が現れました!」
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