お題:騙された独裁者 制限時間:30分 読者:40 人 文字数:1682字

「軽トラ拾った」
 さて、どこから話していけばいい? そうだな、谷川が車拾ったとか言い出し始めたころからが一番良いだろう。
 日曜日の或る日。朝熊と隼は谷川という同級生兼腐れ縁のエセ不良にみずほ公園まで来い、と呼び出された。いつもは誰かの家に集まったり、ファミレスやカラオケ店で集まることが多く、公園に呼び出されたのは初めてだった。少しは不審に思ったが別に悪いことではない。だから細い公道と隣り合わせに存在する――最近ジャングルジムが撤去された――みずほ公園に朝熊と隼は集まっていた。が、呼び出した本人である谷川の姿は集合時間になっても現れない。集合時間から5分後、多少の憤りを感じながら携帯を開き、奴に電話で文句を言ってやろうとした朝熊の耳にけたたましい音が入ってきた。数分ぐらいなら、と文句を言わずに素直に待っていた隼と共に音の出る方を見ると、公園の入り口付近で白い軽トラがクラクションを鳴らしていて、運転席から体を半身乗り出して手を振ってくる谷川の姿があった。
 2人はとりあえず級友の姿が見えて安心する。そして軽トラに駆け寄った。が、隼はそれに気づいていた。
「君、まだ17でしょう?」
 そう、朝熊も隼も16歳。2人はまだ今年度になって誕生日を迎えていないため、もし谷川が早生まれだった場合は17歳。そして免許取得に必要な年齢は18歳。どう考えても1年足りない。まさか無免許か、と朝熊の頭に犯罪の香りがよぎるが、そんなことはないと一瞬で消し去る。谷川の素行は知っている。日曜日、ゲーセンで他校の生徒に財布をすられたときには月曜日に堂々とその高校を襲撃し、何故か朝熊と隼まで谷川と共に生徒指導室に呼び出されたり、そのスリをした高校生と面会した途端にその生徒の左目目掛けてボールペンを投げたり、谷川は金髪ピアスの絶頂不調なのだが、根はやさしいのだ。多分恐らく十中八九だいたいは。
「俺、校長殴って留年してっから」
「――」
 言葉もなかった。
 本人が言うには、他校でうざい独裁者やってる校長を女子高生を騙って呼び出し、一発ぶん殴ったとのこと。当然谷川が通っている高校にもその連絡がいき、警察沙汰にまで発展した挙句、留年したそうだ。いやよく捕まらなかったなと逆に関心しそうになる。
「ま、アイツは色々バレて免職になったみたいだし、俺も高校で1年遊べるしでお得三昧だわ」
 したり顏で笑う谷川に、2人は笑い返したらいいのかわからなかった。
「で、その軽トラはなんだ? つーか何の用だよ」
「軽トラは家の庭にあったのを拾った。用事っつうのは、海だ!」
「……?」
「……?」
 若干黄ばんだ歯を見せてニヤリとガッツポーズを取る谷川。訳が分からないと無表情になる朝熊と隼。何故かハイテンションな谷川に軽トラの運転席に押し込まれ、いつの間にか走り出しているしている軽トラ。本来は2席しかないのに押し込まれてギュウギュウになりながらも、2人は突然の展開についていけず、しばらく放心していた。
 まあすぐに色々と取り戻して、割と楽しい小さな旅行が始まったのだ。荷台に乗せると警察にどつかれるようで、しかもこの軽トラは谷川の庭によく無断駐車している軽トラのようで、警察にばれるとやばいとのこと。今回持ち出したのは何度も警告してるのに何度も停めてくる持ち主への嫌がらせだったようだ。鍵がつけっぱなしだったので、昨日のうちに近場のパーキングエリアに持っていき、そのノリで今日まで引き継いだ、という。こういうアホだから谷川は面白い。やってることは半分以上黒の犯罪だけど。
 ちなみに谷川の運転はかなり慎重だった。前の車との幅は大きめに空けるし、速度も飛ばさない。本人の性格からして受け入れがたいことだったが、本人曰く保険がないからやばいとのこと。まず人の車を勝手に乗り出していること自体やばいことだと思うのだが、朝熊は口を閉じた。
 ちゃんと海にもついて、軽く遊んで夜には帰ってきた。まあまあ楽しかったのだが、帰りの社内で隼が掃きやがって、文字通り思い出が汚れてしまった。一生忘れはしないことだ。
作者にコメント

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