お題:最弱の妄想 必須要素:パーカー 制限時間:1時間 読者:20 人 文字数:1555字 評価:1人

ナードと鋏は使いよう
 僕のような典型的なナードにとって真夏の海ほど危険な場所はないわけだけれど、じいちゃんの店の手伝いを頼まれた以上、僕に逃れる術はない。ここで水着姿のクラスメートに会う可能性は決して高くないけれど、じいちゃん相手に首を横に降れば鉄拳は確実に振り下ろされるのだから。
 日焼けした男たちが小さな布を張り付けただけの女を目で追う。それが生物として正しいことぐらい僕にも分かる。けれど、僕にはできない。学校生活で叩き込まれた負け犬根性は、女の肌を見たいという欲求を容易く黙らせる。「おい、軽蔑されたくなけりゃ、お前はずっとフランクフルトの焼き加減でも見てるんだな」と。そうして、パーカーのフードを深めに被らせるのだ。
 スクールカーストなんて学校の中だけの問題で、卒業してしまえば関係ない。そう信じていたのはずっと昔。今はちゃんと知っている。これはそのまま人生の縮図で、つまり僕は生き物としても正しく最下層に位置しているのだと。

「おい、それ、焦げそうだぞ。しっかりやれ」

 じいちゃんの怒号に、慌ててフランクフルトを網から上げる。ちなみに、バイト代はこのフランクフルトで支払われる。現金は1セントぽっちももらえない。まったく割に合わない。弱者は虐げられるのみ。ここでもまた、僕の悟りの正しさが証明されてしまった。

「あら、こんなところでバイトしてるんだ」

 網に視線を落としていると、頭の上で声がした。客だ。慌てて顔を上げると、スージーがかわいらしい水着を着て立っていた。
 驚いて、上手く声が出なかった。つっかえながらなんとか挨拶を返すと、スージーは優しく頷いてくれた。

「みんなで遊びに来たんだ。5つちょうだい」

 つくづく不思議な子だ。カースト最上位のくせに、リサあたりに買いに行かせないで自分で来るなんて。それに、こうしてナード野郎にも気安く話しかけてくれる。
 それがあらゆる意味で残酷なことだって、まるで気づいていない。

 震える手でフランクフルトを包み、ビニール袋に入れて渡す。何度も繰り返してきたはずなのに、まるで初めてみたいにまごついてしまった。それでもスージーは相変わらずにっこりとしながら、何も言わずに待ってくれる。

「あ、こ、この前の劇、良かったよ。すごく」

 言ってしまった。フードで顔を隠したまま、ごにょごにょと。まったく、僕は何を期待してるんだろうか。仲良くなれるはずもない。無難にやり過ごせばいいのだ。欲をかくなんて、僕は自分で思うよりずっと卑しいらしい。

 スージーは何でもない風に、やっぱりにっこりと笑いながら、「ありがとう」と袋を受け取った。そうして、クラスメートが待っているであろう方へ歩いていった。
 自分の浅はかさに嫌気がさした。スージーぐらい心に余裕のある子が、僕を気味悪がることなどないのだ。それはそもそも眼中にないってことで、喜ぶべきことではないんだろうけれど、それでも僕は人生なかなか捨てたもんじゃないと、そう思った。



「おう、スージー」
「ねぇ、店番してたの、あいつじゃなかった? ほら、なんて名前だっけ」
「そうなのよ。遠くからじゃ顔分かんなかったんだけど」

 私はみんなの前で、あの子から受け取った袋を逆さにしてみせた。フランクフルトがぼとぼとと砂の上に落ちるのを見て、みんなが驚きと喜びの視線を私に注ぐ。

「ナード野郎から買ったものなんて、食えたもんじゃないわ。別の店を探しましょう」

 別に、あの子に恨みがあるわけじゃない。ただ、私は私で己の身を守らなければならないのだ。クイーンビーも安泰というわけではない。たまにこうして威厳を見せておかないと、いつ、誰に取って代られるか分からないのだ。















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