お題:最弱の妄想 必須要素:パーカー 制限時間:1時間 読者:26 人 文字数:1352字 評価:0人

不夜城の狼
今宵も眠らない街を征く。オーバーサイズのパーカーに身を包み、俯き気味にフードを被る。

「さぁ、いこっか」

視線を上げる必要は無い。繁華街の喧騒が身体に染み込み、秘めたハートを滾らせる。自然と大きくなる歩幅。私は今、最高に格好良い。

ふと、ガード下に蠢く人の群れ。獲物を見つけた獣よろしく、自然と口角が上がってしまう。

「手前が飲んだ分くらい手前で払えよおらァ」

「あ、あ、あんなの詐欺じゃないか!」

典型的すぎる、怖いお兄ちゃん達とみっともないおじ様。堅気じゃない見た目のお兄ちゃん達に囲まれたら、誰だって怖いだろうけど。

「ちゃんとサインしただろが手前でぇ!」

情けない、酔っ払って同意書も書かされている。このおじ様にアルコールから学んだ事などあるのだろうか。非常に情けない、が。

「ちゃんと払えよクソが!!!」

一番ヤバそうなお兄ちゃんの爪先が、おじ様のふくよかな腹に刺さった。おじ様、体をくの字に曲げて苦悶の表情。

「あ~もしもし?いつものです、○○駅××行き近くのガード下です、お願いしま~す」

取り敢えず警察を呼んでからお兄ちゃん達に声をかける。おじ様が先にこちらに気がつく。

「おにーさんたち何やってるの~?」

まだだ。まだ、顔はあげない。おじ様に蹴りを入れたお兄ちゃんが近づいてくるのがわかる。

「どうしたのかな、おチビちゃん?まさか見ちゃったかな?」

「うん、見ちゃった♪」

「じゃあ、悪く思うなよ?」

おじ様に膝をつかせたのと全く同じ軌道で、鳩尾に爪先が飛んでくる。

どふっ


鋭く短い音。私の軽い体が宙に浮く。


と、良かったんだけどなぁ……

「ぁ”ぁ”ぁ”だぁ”ぁ”!?!?」

爪先を抱えたお兄ちゃんが片足で跳ね回る。どこかで見たことあるような動きに、おじ様も私もふふっと笑ってしまった。

「な、なんだ手前……」

「通りすがりの合法ロリだよ、なんて適当だけどさ。手を出したからには覚悟してね……?」

ようやく爪先を離してこちらを睨むお兄ちゃんの、鼻っ柱に膝をお見舞する。崩れ落ちる前にシャツの襟を掴み、2人目に向かって投げつける。体勢を崩した2人目の肩に飛び乗って肩車。

「お嬢ちゃん、俺は何もしてないよ……?」

「ど・う・ざ・い・♪」

捻りを加えてそのまま地面に叩きつけてあげた。

「ひぃぃ!!!」

いかにも小物っぽい悲鳴を上げて逃げ惑う最後のお兄ちゃん。回り込んで足をかけてやったら、頭からすっ転んだ。と、全員が伸びた所でサイレンの音。

「いつもありがとうございます。一応確認ですが、やりすぎてませんね?」

「もちろん正当防衛で~す!ね、おじ様?」

「あ、あぁ!あぁ!先に手を出したのはこいつらだからね!」

目配せすると、赤べこにも負けないくらいにコクコクと頷いたおじ様、物わかりが良くて好感が持てる。鼻で笑ったお巡りさんにお兄ちゃん達を引渡したところで、おじ様もご帰宅。

「はぁ、なんだか物足りないなぁ」

結局今日も、私が負けるくらい強い相手は現れなかった。いい運動にはなった、位の感覚だ。

1人になった途端浮かんでくる笑みを噛み殺し、再び不夜城を彷徨う。

「ま、これだからやめらんないんだけどね」
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