お題:絵描きのボーイ 必須要素:聖書 制限時間:15分 読者:34 人 文字数:847字

赤い灯り
(#136)

 見渡す限り白い靄に包まれている。
 それらは空気中に含まれている水分なのだと知っているから、少年は口を開けて靄を摂取していた。
 たとえ食べる物が無くて飢えを感じようとも、渇きに苛まれることはないだろう。
 それは少年にとって大いなる救いなのだった。
 傍らには聖書が開いた状態で置かれている。
 少年が意図的にそのページを開いたのか、勝手に風が紙をめくったのかは定かでない。
 そこに描かれている風景は、少年が置かれている環境とは全く違っていて。
 少年は絶望を感じたのか、それとも羨望や哀れみを感じたのか。
 自らの血液でところどころに色を付けている。
 赤い水玉のように。赤い涙のように。赤い涎のように。
 少年はまだ口を開け続けている。
 白い雲の上に座っているように見えるけれど、実際の足場が何なのかは知れない。
 微動だにしない様子だけを観察すると、少年が生きているようには思えないのだが。
 もしかすると少年は既に風化して、そこに彫像のように存在するのが生き甲斐なのかもしれない。
 白い靄だけが生命を宿しているかのように、ゆっくりと動き続けている。
 それらは少年を潤し続けている。
 風がまた聖書のページを優しくめくっている。
 次のページにも、そのまた次のページにも、赤いシミが点々と続いている。
 白しか存在しない世界に、さも道標のように鮮やかな赤。
 ふと、少年が口を閉じた。
 そして自らの親指に歯を立て、小さく、けれども力強く自らの皮膚を破った。
 紅玉のように少年の親指から生まれ出る小さな赤。
 それは暗闇にただひとつ点る、僅かな、それでいて尊い灯りのようだった。
 少年は自らの灯りを舌でそっと舐めとり、しばらく味わった後に聖書に手を伸ばした。
 少年の膝の上で無造作に選択されたページには、リンゴのような果実の絵が載せられていた。
 少年は慎重に、その絵に命を宿そうと試みる。
 少年の命と引き換えに、白だけの世界を救おうとするかのように。
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