お題:強い狐 必須要素:下駄箱 制限時間:1時間 読者:44 人 文字数:2995字
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妖狐の恩返し


下駄箱に紙が入っていた。

『今日の夜七時 三丁目の東屋公園で待ちます 強い狐より』

果たし状を受け取った。しかも自ら強いと名乗るキツネである。いや、もしかしたらそう名乗るだけの人間であるかもしれない。キツネが文字を書ける訳がない。
しかし、俺は恨みを持つ人間にも心当たりが無かった。決して白い人生では無かったが、呼びつけられるまでの大事をしでかしたとは思っていない。俺がそう思っているだけかもしれないが。
靴を履いて、校舎の外に出る。玄関前のロータリーにはスズメが群がって何かつまんでいる。のどかな光景とは裏腹に、俺の思考は変な方向へ走り出した。
案外人間ではない存在からの宣戦布告かもしれない。例えば──

「……妖狐」

中国や日本で伝え残されている九尾の狐なんかは人の力で太刀打ちできないほどの強さかも知れない。ならば自ら『強い狐』と名乗るのも道理であろう。
だが、そっちの方に関しても何か怒りを買う事は思い当たらない。無宗教であり、オカルト系や伝説系は歴史に絡むものしか知識にない者にそれらの類が戦いを挑む訳が無いだろう。そうなった時ひねり潰されるのは俺に違いない。
色々な可能性に思索したが、どれも根拠に弱く腑に落ちない。だが、イタズラで一蹴するにも何か引っかかるところがある。それが何かはまだ分からない。

「会うしかないか」

その目で見て確かめるのが一番である。それに、もし相手が人間であるなら顔を出さないのはまずいというものである。このような脅迫文書紛いのものを適当な下駄箱に突っ込むことは無いだろうから、ターゲットは俺に絞られているのだろう。逃げても捕まるだけだ。
観念して、俺は一度家に帰り、日が沈むのを待ち待ち合わせの場所に向かう事にした。

両親は共働きで帰ってくるのはいつも九時過ぎだ。なので、日がとっぷり暮れてから家を出ても咎める者は居なかった。
向かった公園は家から歩いて五分ほどの、休憩所がついた小さな公園だった。昼間は幼い子供たちで賑わうであろうこの空間だが、夜であるから人は誰も居ない。居るとすればホームレスのおっちゃんか、それともイチャつくカップルか。
いくら見渡しても人は居ない。やはりイタズラの類だったか。そう思ったが、念の為俺がここに居ることを告げる。

「来たぞ」

そう口にすると、突然目の前に煙が出た。呆気に取られていると、煙の中から、音も立てず一人の少女が現れた。なんてファンタジーな事だろう。と言っても目の前の出来事である。

「お前が……俺を呼び出したんだな?」
「……あぁ」

いかにもお年頃の女の子という容姿なのに、口調は厳つい。身長は俺の肩と変わらない。元々身長は高くない方なので、彼女は中学生ぐらいと見ればいいだろう。黒いショートカットの髪。胸は……見なかった事にする。最も登場の仕方から人間では無い。化け物だと、少し怖気付いたが、それよりも何故俺を名指し同然で呼んだのか気になった。

「その理由を教えてくれ」
「……あなたが恩人だからだ」
「はぁ……、───は?」

どれだけ記憶を遡ってもこんな可愛らしい娘を助けた覚えは無い。有るならとても印象強く残るはずだ。
いや、そう言えばこいつは人間ではなかった。では何か。

「最初に一つ、お前は人間か?」
「いや違う。君らが『妖狐』と呼ぶ存在だ」
「ほーん。妲己とかそんな類で?」
「そのように認識して貰えればよろしい」

内心叫びまくっていた。化け物が目の前にいる。若い娘に化けた狐が。食われる。ここが俺の墓場になるのか。
とはいえ大声を出してもろくな事にはならないと思ったので、顔は平静のままに保つ。俺の得意技である。

「じゃあ九尾の狐だったりするの?」
「そうだ」
「へー……、──マジで?」

この短時間で何度驚かされた事か。心臓はバクバク言っている。
国を傾けた様な奴と同等、それ以上かもしれないやつが目の前にいる。
なんかどうでも良くなった。俺は今日短い人生を終えます。ありがとう母さん父さん。
心はヒビが入るほどカラカラになっている。生きて帰れないと諦観しつつ、詳しい訳を聞いてみる。

「お前を助けたことは無いけど……?」
「有るのだ。私がキツネに化けていた頃だ」
「……あー、そういやあったなぁ。中学生の時か」

家族で東北へ旅した時に、道端に座り込んだボロボロのキツネを見つけた。元気が無く、弱りきっているように見えた。キツネが病原菌を持っていると知っていたので、手を触れることはせず、ひとまず近くの動物病院に駆け込んで、獣医を呼んだのだ。俺えらい。
たまたま心優しい獣医さんだったので、直ぐに現場に向かって保護してくれたのだ。幸いエキノコックスは持っていなかった。

「で、そのキツネがお前だと」
「そうだ」
「ほー……。良かったなぁお前生きてて」

助けた直後はとてもとても心配した。旅行中だったのでそのあとの事は分からないが、病院をあとにする前に「必ず元気にしてみせます」と力強く言ってくれた獣医さんの言葉を信じていた。今にになってもその時の顔を忘れられない。まさか、その時のキツネがこんなにも立派になって──

「いや、なんでお前は普通のキツネに化けてたの」
「気が向いたので」
「ああ……そう……」

力が強いものの考えは俺には知り得ない。うん。

「九尾の狐が?キツネに化けて?なんで弱ってんの」
「それがだな……」

少女は急に照れたように顔をそむけた。あらかわいい。

「……獲物が見当たらなかった」
「……」
「その……冬は……人間に紛れて食糧を調達してたから……つい……」
「……野生の時の身の振り方を忘れたと」
「……」

確かにその旅行は冬だった。なんてこった。とんでもねぇ間抜けな九尾の狐である。
だが、意外と気は軽くなっていた。こんなぽんこつな九尾が人を喰うはずはない。

「最後に、お前は人を喰うか?」
「昔は食べていた時期もあるが、この数千年は口にしていない。味も忘れた」
「そうか」

こんな狐なら、助けたかいもあった。もしその後に人を喰っていたなら俺はコイツを助けたことを後悔したはずだ。もしかしたらその言葉に嘘が混じっているかもしれないとも考えたが、俺にはそう見えなかった。

「……助けてくれてありがとうございました」
「そんな頭深々と下げなくたって良いから」

慌てて彼女の体を起こす。すると、彼女はこう言った。

「それで、もう一つ頼み事があるんだが」
「はぁ」
「お前ん家でしばらく過ごさせて欲しい」
「え?」
「頼む」

深々と頭を下げる妖狐。こうも頼まれたら断りづらい。相手が妖怪だと言うことを忘れてしまう。

「おいおいうちの親はどうすんだ」
「幻術でなんとかする」
「……」

とんでもねぇキツネと出会った気がする。いや、とんでもねぇ大妖狐だった。
嘘だろ……と真上を向き吐息混じりに呟く。星の海が視界いっぱいに広がっていた。

「…その幻術、ちゃんと効果あるだろうな?」
「ああ。無論だ」
「どうしてもってか?」
「人の伝はコチラに無い」
「分かった。ひとまず家こい」
「かたじけない」

あーあー奇想天外な事になっちまった。俺はこれから起こるであろう事を色々思い浮かべて、肩を落とした。
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