お題:自分の中の処刑人 制限時間:15分 読者:34 人 文字数:949字

映写技師が夢だった
映写技師になるのが夢だった。幼い頃、映画館の座席でときおり振り返って光りの筋が刺しこんでくる四角い窓の向こうでじっと黙ってスクリーンを見つめている映写技師の姿を想像していた。時がたち、大人になり、やりたくもない仕事に埋もれてその夢は影も形もなくなってしまった。時折映画には行ったが、もう後ろを振り返ることもなくなった。いつの間にかデジタル上映が普通になり、窓の向こうにはただ機械がいるだけで、映写技師も誰もいなくなっていたのだ。映写技師がいつ消えたのか、そして彼らはどこに行ってしまったのか、ぼくは知らないし、知ろうともしなかった。

ある日、図書館で、ぼくは一枚のビラを見つけた。「映写機講習会」の参加者募集だった。無料だし、ちょうど予定もなかったので、ぼくは何の気なしに応募した。
講習会の当日、駅から会場に向かって歩いていると、電柱の陰から誰かが現れた。ぼくは驚きのあまり息をのんだ。それは、若い日のぼくだった。
「どこに行くのですか」
 彼は、ぼくにそう訊ねた。ぼくはありのままを答えた。
「だめです」
 彼は、そう言ってぼくの行く手をはばむかのように前に立ちふさがった。
「何をするんだ、どいてくれ」
「あなたは、若いころ、映写技師になる夢を持っていながら、何をするでもなく、その夢を捨てた。そんなあなたに映写機を触る資格はない」
 そう言って昔の私は、私の胸を突き飛ばした。
「参加する資格があるのは、あなたではなく、ぼくです」
そして、私のカバンから講習会の受講票を引っ張り出して、走り去った。
 ぼくは、彼の後を追いかけて会場に入った。
「受講票を忘れてしまった」
 そう受付に説明して名前を告げると、
「その方はもう来られています」
 会場をのぞくと、昔の私が、席についていた。
「おい!」
 叫ぶと、昔の私が振り向いた。そのふたつの目から強烈な光が出て、私の目を射た。激痛が目に走り、私は両目を押さえてうずくまった。
「映写技師を捨てたお前は、もはや映画を観る資格もない。お前は永遠に闇の中をさまようのだ。お前の映画館はもう閉館だ。もう二度と何も上映されないまま朽ち果てて行くのだ」
 何とか目を開いたが、目の前は暗闇のままだった。ただ昔の私の高笑いの声だけが聞こえるのだった。
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