お題:かゆくなる関係 制限時間:30分 読者:84 人 文字数:1687字

共謀者
先王アルベルトが己の後継に末の弟ティグリスを指名したことは、王国に激震をもたらした。

この指名に殊更憤懣を覚えたのは先王の長兄ナイルと妃イリスである。
前者は本来先々代である父王は自分を指名すべきであったという想念が消えず、後者は夫が自分の息子を見捨てたのだと憤った。
どちらも野心家で他者と倶に天を戴くなど夢にも考えない人間であったが、一点現王―一方にとっては実弟であり、他方にとっては義弟である―を配さねばならないという見通しは共有できる間柄であった。
こうして2人は陰謀の結託者となった。

「良いのですの、こんな場所にいて…奥方に感ずかれませんこと?」
「そちらこそ、寡婦になったばかりで亡夫の兄と臥所を共にするなどと知れたら大事でしょうに」

燭台の小さな炎が仄かに照らす室内で、ナイルとイリスは寝台の上に寄り添って横たわっていた。
当然、両者一糸もまとっていない。

陰謀の共犯となる誓約を交わした日から、自然とこういう関係になった。
或いは互いに「自分はあなたを信頼している、裏切らない」と誇示する、デモンストレーションだったのかもしれない。

「ティグリスなどまだ尻の青い孺子(こぞう)ではないか。あんなやつに国は任せられない。我らがこれから行おうとすることは、大義のためなのだ」
「わかっております。断じて私欲のためなどではございませんわ。国を憂えばこそ」

両名、言葉を交わしながら身体がかゆくなるのを必死に堪える。
どちらも相手の言葉を微塵も信じていないし、己の言葉が信じられるとも露とも思っていない。
今の権力者を配したら、目の前の情人が次の競争相手になることはわかりきっているのだ。
これほど空虚な関係が、他にあろうか?
内心バカバカしさを感じつつも、最早冗談で済まされないのがたちの悪いところだった。

「既に暗殺の準備は整っている。数日中にも決行できよう。そなたにも協力を頼むぞ」
「わかっております。すべてはあなた様の計画のままに…」

潮らしいことをいいながら、このときどちらも腹の中では別のことを考えている。
ナイルはイリスを感情でしか動けない思慮の浅い女だとみなし、イリスはナイルの器の小ささにほとほと辟易していた。
危急の時ゆえ藁にもすがる思いで手を握ったが、倶に語るにふさわしい相手でないとどちらも内心では見下していた。
そのような相手に自分の運命を委ねて良いはずがない、この計画は必ず失敗するだろう。
彼らは野望よりもまず己の保身に意識を向けつつあった…


決行の前日になり、王ティグリスの暗殺計画は露見した。
首謀者であるナイルとイリスは、ティグリスの前に引き立てられた。

「兄上、義姉上。あなたがたの陰謀は、このティグリス密告により知る処となりました」

どちらも驚愕に眼を見開いて何もいえなかった。

「兄上からは義姉上が、己の子可愛さに暗殺者を手引きしていると。己は心ならずもその計画に引き入れられたが、王への忠誠厚く計画を調べるために敢えて協力を装ったと…」

「卑怯者め、よくもそんなでたらめを…恥を知れ!」

イリスはナイルへ唾を飛ばして罵り、衛兵に取り押さえられた。

「一方、姉上からは兄上が予を暗殺せんとしている。自分は偶然その事実を知り、命が危ういかもしれぬと助力の嘆願をいただきました」

「どの口がほざくか、売女め!」

こんどはナイルが衛兵に取り押さえられる番だった。

2人はどちらも我が身可愛さに、共謀者を密告したのである。
結果両者の悪事が手もなく露見してしまった。
喜劇という外はない。

「欲望に眼がくらんだ者の末路など醜いものよ!このティグリス、汝らなどに懸念されるまでもなく、見事にこの国を取り仕切ってみせよう。あの世から我が治世をながめているがよい」

それは王自らの処刑宣告だった。
2人はがっくりと項垂れた。

両者は互いに互いを裏切りながら、この時なお心中同じことを思っていた。
かゆいなどという生易しいものではない、この相手との関係は、虫唾の走るおぞましいものだった、と。
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:巳々栗ぼっち お題:去年の栄光 制限時間:30分 読者:5 人 文字数:730字
「……」 高架下の道に、そいつはいた。雨天にもかかわらず、傘をささずにここまで来たようだ。そいつが――彼女が――かぶっているパーカーは、フードから肩のところまで 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:巳々栗ぼっち お題:飢えた空 制限時間:30分 読者:4 人 文字数:695字
「かつて人類は、空を飛んでいた」 無表情のまま、けれど謡うように師は言った。「甲鉄の翼と燃える水。それらを以て、我らの祖先は確かに空を支配していたのだ。――ここ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:からぱん お題:蓋然性のある昼 制限時間:30分 読者:29 人 文字数:908字
自室のカーテンから漏れる柔い日光によって十時に目が覚めた。少しの頭痛と寝すぎてしまったということに対する焦りが入り混じり不快感を感じる。急いで体を起こすと、体 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:風魔小太郎 お題:恐ろしいボーイズ 制限時間:30分 読者:12 人 文字数:761字
お題:「楽しかった小説練習」 高校生の頃、演劇をした。今となっては懐かしさと恥ずかしさの両刃を持つ思い出の一つだ。ロボットと人間のストーリーで、オチもロボットが 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:茂吉 お題:希望の汁 制限時間:30分 読者:5 人 文字数:726字
どうしても、師匠の味を越えられない。 有名ラーメン店で5年修業をした後、独立開業したものの、結局、師匠の味の二番煎じだ。出だしは好調だった。しかし、ラーメン通 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:巳々栗ぼっち お題:限りなく透明に近い模倣犯 制限時間:30分 読者:12 人 文字数:1076字
「僕じゃあない」 緊張感でひりつく取調室に、少年の声が小さく響いた。自称十七歳のその少年は、伸び放題になっている前髪の向こうから、じっと俺を見つめている。その少 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
りんご飴 ※未完
作者:さとりっく お題:わたしの好きな正月 制限時間:30分 読者:7 人 文字数:269字
日本国旗がはたはたと揺らめく道を、小走りに美智恵は駆けていく。下駄を音高く跳ね上げ、赤い鼻緒が道行く人々の目を止めた。桃色の着物に包まれた可愛らしい姿とは程遠く 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
理由 ※未完
作者:南野 ツバサ お題:穏やかな狸 制限時間:30分 読者:7 人 文字数:613字
夜空に煌びやかに光る星たちの下、二人は草原で寝そべっていた。風で草がこすれる音、虫たちの歌声。 そして、互いの息遣いが静かに聞こえる。二人は何も話さない、草の 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:巳々栗ぼっち お題:理想的な14歳 制限時間:30分 読者:11 人 文字数:1003字
「こんにちは、お兄ちゃん!」 駅前の広場にあるベンチで休んでいると、そんなふうに声をかけられた。念のため左右を確認してから顔を上げる。すると、目の前にはやたらと 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:つらい秀才 制限時間:30分 読者:76 人 文字数:1089字
何かの分野において秀でること。それは、到達への道筋を無視して、ゴールのみを想像すれば、簡単に思えてくるのだろう。テストで百点を取ること、野球でホームランを打つ 〈続きを読む〉

いしゅとの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:宗教上の理由で大学 制限時間:15分 読者:95 人 文字数:812字
「離してくれ、俺はもうこんな大学いられないんだ!」そう言って立ち去ろうとする俺の肩を、友人の野上がつかんできた。「おい、いきなりそんなこというなんて、一体どうし 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:昨日の粉雪 制限時間:15分 読者:62 人 文字数:850字
龍彦は不機嫌だった。原因は昨日の午前中の積雪にあった。季節外れの異常気象により、四月だというのに雪が降りに降って、ついには一面の銀世界を現出させた。踏めばサクサ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:捨てられた風 必須要素:化粧水 制限時間:30分 読者:47 人 文字数:1178字
「いつか空の向こうへ行ってみたいんだ」リアンがそう告げると、出会ったばかりの少女―確かシェーラとか名乗った―は不思議そうに首をかしげた。「どうして、そんなところ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:黒い関係 制限時間:15分 読者:61 人 文字数:832字
「ねー、やっぱりあの2人、怪しいよねえ」昼休み、私は同僚たちと噂話に花を咲かせていた。現在私たちのグループ内では、A子とB男の話で持ちきりである。「いつもこそこ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:何かのおっさん 制限時間:15分 読者:65 人 文字数:1060字
世界一強運な男がいると聞き、私は記者として取材にやってきた。男は匿名を希望したので、ここではイニシャルのB・Jとだけ記しておこう。「はじめまして、あなたは世界で 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:せつない夢 制限時間:15分 読者:76 人 文字数:1136字
名探偵には、ひとつの大きな夢があった。その夢に出会うために、彼は今日も事件現場に足を運ぶのである。「…以上が、この事件のあらましです」顔見知りの刑事に説明を受け 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:かゆくなる関係 制限時間:30分 読者:84 人 文字数:1687字
先王アルベルトが己の後継に末の弟ティグリスを指名したことは、王国に激震をもたらした。この指名に殊更憤懣を覚えたのは先王の長兄ナイルと妃イリスである。前者は本来先 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:臆病な靴 制限時間:15分 読者:98 人 文字数:951字
その靴は、誰にも買ってもらえなかった。臆病で、ちょっとしたことがあるとすぐ逃げ出すからだ。「この前犬に吠えられただけで勝手に逆方向へ走り出して遅刻しちまった。こ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:私が愛したエデン 制限時間:15分 読者:109 人 文字数:1039字
跨線橋の上で、僕は去り行く彼女と向かい合っていた。冬だった。雪交じりに吹き付ける風が冷たかった。屋根もなく、左右に欄干が取り付けられているだけの、古い跨線橋だっ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:気持ちいい魔法使い 制限時間:15分 読者:102 人 文字数:765字
この診療所は、どんな病気も立ちどころに直すと町中で評判である。訪れた患者もまるで痛みを覚えず、あっという間に症状が改善したことを不思議がっている。「まるで魔法み 〈続きを読む〉