お題:かゆくなる関係 制限時間:30分 読者:10 人 文字数:1687字

共謀者
先王アルベルトが己の後継に末の弟ティグリスを指名したことは、王国に激震をもたらした。

この指名に殊更憤懣を覚えたのは先王の長兄ナイルと妃イリスである。
前者は本来先々代である父王は自分を指名すべきであったという想念が消えず、後者は夫が自分の息子を見捨てたのだと憤った。
どちらも野心家で他者と倶に天を戴くなど夢にも考えない人間であったが、一点現王―一方にとっては実弟であり、他方にとっては義弟である―を配さねばならないという見通しは共有できる間柄であった。
こうして2人は陰謀の結託者となった。

「良いのですの、こんな場所にいて…奥方に感ずかれませんこと?」
「そちらこそ、寡婦になったばかりで亡夫の兄と臥所を共にするなどと知れたら大事でしょうに」

燭台の小さな炎が仄かに照らす室内で、ナイルとイリスは寝台の上に寄り添って横たわっていた。
当然、両者一糸もまとっていない。

陰謀の共犯となる誓約を交わした日から、自然とこういう関係になった。
或いは互いに「自分はあなたを信頼している、裏切らない」と誇示する、デモンストレーションだったのかもしれない。

「ティグリスなどまだ尻の青い孺子(こぞう)ではないか。あんなやつに国は任せられない。我らがこれから行おうとすることは、大義のためなのだ」
「わかっております。断じて私欲のためなどではございませんわ。国を憂えばこそ」

両名、言葉を交わしながら身体がかゆくなるのを必死に堪える。
どちらも相手の言葉を微塵も信じていないし、己の言葉が信じられるとも露とも思っていない。
今の権力者を配したら、目の前の情人が次の競争相手になることはわかりきっているのだ。
これほど空虚な関係が、他にあろうか?
内心バカバカしさを感じつつも、最早冗談で済まされないのがたちの悪いところだった。

「既に暗殺の準備は整っている。数日中にも決行できよう。そなたにも協力を頼むぞ」
「わかっております。すべてはあなた様の計画のままに…」

潮らしいことをいいながら、このときどちらも腹の中では別のことを考えている。
ナイルはイリスを感情でしか動けない思慮の浅い女だとみなし、イリスはナイルの器の小ささにほとほと辟易していた。
危急の時ゆえ藁にもすがる思いで手を握ったが、倶に語るにふさわしい相手でないとどちらも内心では見下していた。
そのような相手に自分の運命を委ねて良いはずがない、この計画は必ず失敗するだろう。
彼らは野望よりもまず己の保身に意識を向けつつあった…


決行の前日になり、王ティグリスの暗殺計画は露見した。
首謀者であるナイルとイリスは、ティグリスの前に引き立てられた。

「兄上、義姉上。あなたがたの陰謀は、このティグリス密告により知る処となりました」

どちらも驚愕に眼を見開いて何もいえなかった。

「兄上からは義姉上が、己の子可愛さに暗殺者を手引きしていると。己は心ならずもその計画に引き入れられたが、王への忠誠厚く計画を調べるために敢えて協力を装ったと…」

「卑怯者め、よくもそんなでたらめを…恥を知れ!」

イリスはナイルへ唾を飛ばして罵り、衛兵に取り押さえられた。

「一方、姉上からは兄上が予を暗殺せんとしている。自分は偶然その事実を知り、命が危ういかもしれぬと助力の嘆願をいただきました」

「どの口がほざくか、売女め!」

こんどはナイルが衛兵に取り押さえられる番だった。

2人はどちらも我が身可愛さに、共謀者を密告したのである。
結果両者の悪事が手もなく露見してしまった。
喜劇という外はない。

「欲望に眼がくらんだ者の末路など醜いものよ!このティグリス、汝らなどに懸念されるまでもなく、見事にこの国を取り仕切ってみせよう。あの世から我が治世をながめているがよい」

それは王自らの処刑宣告だった。
2人はがっくりと項垂れた。

両者は互いに互いを裏切りながら、この時なお心中同じことを思っていた。
かゆいなどという生易しいものではない、この相手との関係は、虫唾の走るおぞましいものだった、と。
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