お題:情熱的な母性 制限時間:30分 読者:34 人 文字数:1152字

血は争えない(不倫)
 私が高校教師になったのは、親がそうしろと言ったからだ。私の人生は、ずっと親のいいなりだった。高校も、大学も、親が指定する学校に入った。引っ越し先のアパートも、バイト先も、親の許可がなければいけなかった。
 大学4年の冬に父が心筋梗塞でなくなった。そして、教師になって6年が経とうとした、去年の夏、母は、去年の夏、交通事故で亡くなった。高速道路で正面衝突、即死。しかも、不倫相手の男の車で、箱根に向かっている最中に。それを知った私は、悲しいと思うよりも、そんな母を哀れだと思った。私の人生を自分勝手にコントロールしてきた母が、不倫をしていたのだ。行き場のない怒りがふつふつと沸いた。そのどうしようもない怒りをなんとか処理しようとした私は、母を哀れと思うことで、自分の気持ちを落ち着かせた。

 今、私を支配していた親はもう、この世にはいない。私が自由だ。
それまで悩まされていた酷い頭痛も肩こりも最近はなくなった。肌の調子も良くなった。なぜか仕事もうまくいく。親に言われて嫌々続けてきたこの教師の仕事が、心の底から好きになっていた。

 校庭のイチョウが黄色く色づき始めた頃。私が担任するクラスに転校生を迎えることになった。なんでも親の転勤で、東京からはるばるこの田舎まで引っ越して来たらしい。
 転校初日。
 私は、職員室で生徒名簿を眺めながら、その転校生を待っていた。
『初日はたぶん緊張するだろう。しかも東京からこんな田舎に引っ越してくるなんて。環境の変化や新しい人間関係になれるのは大変だろう。私が支えてあげなくては』
 そんなことを考えているとガラリと職員室のドアが開いた。やって来たのは、長身で、中性的な顔立ちをした男の子だった。あの子だ。転校生の、田代悠くん。
 「どうも」
 彼は私の机までやってくると、浅くお辞儀をした。色白のきめ細かい肌に、色素の薄い茶色の瞳、薄い唇、すっと通った高い鼻。なんというか都会っ子って感じだ。この辺の生徒とはどこか違う、独特の雰囲気を持っていた男の子だった。
 「担任の澤田です。これからよろしくね、田代君」
 そういうと、彼は表情を変えず、「はい」とだけ答えた。


「純子さん」

 その田代君がこの田舎に転校してから1年半が経とうとしていた。彼は、私のことを下の名前で呼ぶようになった。私も「悠」と呼ぶようになっていた。週末は、私のアパートで二人で過ごすのが日課になっていた。10個以上も離れた悠の若く細身ながらもがっしりした体に、毎週のように抱かれるようになっていた。
 クラスになかなかなじめない彼に、手をやいていた私は、いつの間にか、彼を愛するようになってしまったのだ。
 不倫をした母をあざ笑っていたこの私が。

 血は争えない。そう思った。
作者にコメント

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