お題:私が愛したエデン 制限時間:15分 読者:148 人 文字数:1039字

さよならエデン
跨線橋の上で、僕は去り行く彼女と向かい合っていた。
冬だった。雪交じりに吹き付ける風が冷たかった。
屋根もなく、左右に欄干が取り付けられているだけの、古い跨線橋だった。

「もう行くね」

彼女の声が、雪の中に溶け込んだ。
「改札までは見送らなくていいよ」と彼女は付け加えた。
そこまでついてこられると、本当に電車に乗れるか自信がないから、とも。

「…本当に行ってしまうのか」
「うん。夕べ、何度も確認したでしょ」
「だって俺、お前がいない生活なんて想像もできないよ」
「すぐ慣れるわよ。人間は悲しみにも寂しさにも、慣れることができるようにできているの」

そんなのは負け犬の言い訳だ、と思った。
子供の頃から、ずっと彼女と一緒だった。
近所の駄菓子屋を回った記憶も。
小学校に初登校した時緊張でもらしてしまった俺のために、彼女がこっそり家まで行って替えのズボンと下着をとってきてくれた記憶も。
2人で水族館を巡った記憶も。
その暗がりで、こっそり唇を重ねた記憶も…

僕の思い出には、いつも彼女が姿をみせる。
彼女がいなくなるということは、僕の視界から風景が消えるにも等しい。

「せめて行先を教えてくれよ。俺、会いにいくよ!」
「あなたが会いに来てしまうから、教えられないのよ。お父様からも言われているでしょ」
「君は…君はもう俺が嫌になっちまったのかよ!」
「そんなわけないでしょう」

彼女がゆっくりと、俺の頭を胸に埋めた。
子供をあやすように、頭をなでてくれた。
冷たい冬の風が吹きすさぶ跨線橋の上で、そこだけが温かな場所だった。

「あなたのことが大事だから、この世界の誰よりも大事だから、私はあなたの前から消えなくちゃならないのよ。お願い、これ以上私を困らせないで」
「…ごめん」

わかってたことだ。
これまで何度も自分に言い着かえ、納得させたことだ。
ただ納得することと受け入れることはまた別のことなのだ。
当たり前のことに、こんな土壇場で気づくなんて。

これまでの僕は楽園の中にいたといっていい。
僕の傍には、常に彼女がいたのだから。
今、その楽園は永遠に失われようとしている。
思い出の中のみの存在に、なろうとしている。

「さよなら」

そう言って、彼女は背を向けた。
別れる際に恋人らしい抱擁も、キスもなかった。
雪がその姿をかき消した。

やがて彼女が乗ったはずの電車が線路の上を彼方へ去っていくのを、僕は跨線橋の上からいつまでも見下ろしていた。
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