お題:恥ずかしい君 制限時間:15分 読者:105 人 文字数:845字

いつもの君
(#130)

 空を飛べると信じたことはあるかい?
 そんな問いかけを真剣な表情で放つ君。
 私はいつも「そんな難しい質問には答えられない」と曖昧な笑顔を浮かべてかわしている。
 すると君は「そうか…」と、どこか寂しそうな声色を返す。
 そんなやりとりが日課とも言えるある研究室の話。

「何故、空が赤く染まるのか考えたことはあるかい?」
 君は窓際に設えられた自分専用のデスクの上に浅く座り、腕組みをしながらいきなり言葉を発した。
 私の席からは逆光であるために、君の姿はほぼ影の中に沈んでいる。
 その表情がどのような感情をたたえているのか、読み取りたいと思うけれど叶わない。
 手にしているコーヒーカップから湯気が上るのが見えた。
 私はまだ熱い琥珀色の液体をほんの少しだけ自分の体内に流し込んでから、答えた。
「そんな難しい質問、考えたこともないですよ」
 君は小首を傾げるようにした後、自分の細長い指先で、自分の小さな顎を触り始めた。
「そうか…」
 その声は君を包み込む影の中に素早く溶け込んだ。
 普通の人ならばきっと何を呟いたか認識できないくらい細い声。
 けれど私は君の言葉をしっかりと受け取っていた。
 いつも通り、少し悲しそうな声色を。
 私は手にしていたコーヒーカップをデスクに置いた。
 ガラスのデスクが「熱い」とぼやいたのか、カチャンと金属質な音が聞こえた。
 イレギュラーな私の行動に驚いたのだろう、君は体を硬くして私を見据えている。
 緊張している。
 けれどそれは私も同じだ。
 席を立ち、逆光の中にいる君の方へ歩を進める。
 君はデスクから尻を浮かせ、床に重心を移した。
 怯えているように見える。けれど君の本当の感情を私は知りたいのだ。
 私は更に歩を進める。
 そして、君の目の前までゆっくりと時間をかけて辿り着いた。
 じらすように。恐れを助長するように。
 上目遣いに見上げた君の顔。
 私からは視線を逸らしている君の瞳。
 その頬が赤かった。
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